百合

□【めーさく】深夜に一人
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「咲夜さん。」

その呼びかけに、誰も答えなかった。
咲夜はベットの上で寝息を立てている。

美鈴は優しく指先で咲夜の頬に触れた。
ピクリと瞼が動いたものの、目を覚ます事はない。

「やっぱり、眠りが深いんですね。」

美鈴は呟いた。
その声は暗い部屋の中、壁に吸い込まれて消えた。

昼間に消費した霊力を回復するためか、咲夜は寝ている間はそっとやちょっとでは起きない。
昔は、余りにも起きないので死んでしまったかと不安になる程だった。

紅魔館はとても静かだ。
それは周りが湖に囲まれているせいなのかもしれない。
暗い部屋には咲夜の寝息だけが聞こえる。

もし、この部屋に静寂が訪れたら。
それは、咲夜の死を意味する。

美鈴は人間について、詳しくはない。
知っている事は人間は脆く、弱く、すぐに死んでしまうという事だ。


咲夜という人間は花のようだ。
短命で儚くて、美しい。

いずれ、枯れてしまうのならば。
いずれ、誰かに摘み取られてしまうのならば。

ならば、先に自分が摘み取ればいい。


美鈴は咲夜の首に手をかけた。

いずれ、死んでしまうのならば。
いずれ、誰かに殺されるのならば。

ならば自分が食べてしまおう。

首を絞め、肉を噛み千切り、血を啜る。
そうすれば、もう自分のものだ。

誰にも渡したくはない。
これは血に飢えた妖怪の本性か、恋慕か。



咲夜の体がピクリと動いた。
美鈴は急いで咲夜の首から手を離した。

何を考えていたのだろう。
何故、首に手などかけていたのだろう。

美鈴は正気に戻った。

部屋には月の光が窓から射し込んでいた。
窓越しに美しい満月が見えた。

ああ、満月だ。

満月は妖怪を狂わせる。
きっと満月のせいだ。

血に飢えているのも。
この思いも。


美鈴は部屋を出た。
そう、満月のせいだ。

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