短編

□僕が人じゃなくなっても…
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季節はめぐりゆきます


春は小鳥がさえずり

シロは共に春の訪れを喜び唄います



「シロちゃんの声はとても綺麗だね」


白澤は微笑み呟いて

シロも微笑み返します

『私が綺麗な声が出なくなっても愛してくれますか?』


そして白澤は答えるのです


「当たり前だよ」











その時、天国では大変なことになっていました

神獣であり自分達妖怪の長である白澤がいくら待っても帰ってこないのです




彼らは必死に探していました









白澤とシロは幸せな日々を暮らしていました


けれどその幸せは突然崩れていきます






「シロちゃんただいま、聞いて、実は村に行く途中綺麗な花が咲いて…て…」



『……』


「ッ!シロちゃん!?」



シロは病に倒れました


木が生い茂る夏の暑い日のことでした




『白澤様、ごめんなさい、こんな貧しい家だと薬もろくに買えません』


けど、これを売ったら少しでもお金の足しになる筈です
そういって取り出したのは紅い紐
けれど端には華の形をしています
それは恐らく腕につけるブレスレットのようなものでした

シロは呟きます

母の形見だと



床に伏せたシロは哀しそうに微笑みました

白澤はその紐を受けとりませんでした


「大切なものなんでしょ?それはシロちゃんが持ってて意味があるものだよ



…だから




僕が薬を作るよ」





白澤は来る日も来る日も薬を作り続けました

けど、作っても作っても欲しい成果はあげれません


薬を作り続ける白澤の手はだんだんと荒れていき所々血が滲みます


「シロちゃんこれ飲んで?」


白澤はシロをそっと背を起こし薬を飲ませます

『白澤様、ありがとうございます』


白澤に微笑み返すシロは前と比べて窶れていました


シロは白澤のボロボロな手を見て言います



『白澤様の手はとても綺麗な手ですね』

そっと白澤の手を握り優しく微笑むシロに白澤は微笑みします


「僕の手が綺麗じゃなくなっても愛してくれる?」


そしてシロは答えるのです



『当たり前です』









夏の終わりを告げる虫が鳴きます



白澤は薬を作り続けます


早く早く


薬を作らなければ


彼女を秋の葉のように枯らせてはいけない


白澤は薬を作り続けました





なにが足りない?


あと少しあと少し


もう少しで欲しい薬に届くのに



もう森は色鮮やかに染め始めていました







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