ワンピース

□残された唄
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『私をこの島でおろしてください』




純白のシーツに身を包み

私を繋ぐ日に日に増える細い管


見上げた先に見えるのは
暖かな太陽でも
どこまでも広がる青の世界でもなく

無機質な鉄でできた冷たい天井で


それが私の今の世界




そこへ


帰ってくるのは


女物の香水を纏わすあなたで



私の心と身体は悲鳴を上げていた



あぁ




もう




限界かな?



『ローさん、』



もうあの人を解放しなくちゃ



もうあなたの眼にきっと私は映ってなんかいないでしょう






けど





もし



もし
またその眼に映ることがあるならば



『もう、別れましょう?』


笑顔で言わせてください



さようならって






The left-behind song 〜残された歌〜



『・・・ローさん』



私は今日も香水の香りをつけて帰ってきたローさんに静かに言った


「・・・・・・。」


けれど、ローさんは顔色一つ変えずに、まるでそこに初めから私がいないかのように無視し、さっさと自室のシャワールームへと足を運んでいった



『・・・ローさん』


わたしはもう一度名前を呼んだ


するとローさんは次は足をピタリと止め、私を見た


『ローさん、おねがいです私をこの島に「誰に指図している」


ナマエの言葉に覆い被すようにローはいった

その声はいつもの声よりも数倍も低く、冷たいダークグレーの瞳はナマエを射殺できるほど鋭く睨んでいた

ナマエは思わず、身を硬くした



あぁ、これはほんとに怒っている


「この船に乗るときに言ったはずだ、俺に指図するなと」


『・・・指図したわけではありません、これはお願いです』


わたしはもう一度船から下ろしてくれと懇願した


けれどそんな私の想いを知ってか知らずかあなたは私の想いを聞きもしないかのように早々と答える


「別れる事は許可するが、船から下ろすというのは断る」


分かったらさっさと病人は寝てろ、そういって次こそその扉の向こうへ消えてった



壁向こうからシャワーの音が聞こえる



私は力なくまたベッドへと倒れこんだ


ギシッ


とベッドは軋み、私に繋がる管の先の袋が無造作にゆらゆら揺れた


『・・・・・・・・・・・・。』




私ってなんなんだろう?





ーーーーー



私はとある島のしがないバーで唄を歌って生活をしていた




生活も貧しく家族も恋人もいない私の目の前に現れたのが







「お前、俺のために歌え」








海賊旗にハートを掲げた海賊達でした


あなたは怯える私を連れ去って
そのまま海へとまた拐っていった




怖かった


何をされるのかわからなくて


怯えていた


いつ、飽きられて殺されるかわからない恐怖から


けど、そんな思いはすぐとはいかなかったけど次第に消え去っていった




優しくしてくれる少しお調子者の仲間達


のんびり休日を思い起こすような穏やかな航海

そして、時折垣間見せる嵐の中での波乱な航海


そして、そんななか色んな島へと行く、胸が高鳴るドキドキな毎日


目の前にあるすべてが新鮮だった


そして私を連れ去った恐怖の対象でしかなかった船長さんに私は


普段厳しい言葉で、けど最後まで見守ってくれるあなたに

私の歌を気持ち良さそうに聴いてくれるあなたに

危ない目にあうと助けてくれたあなたに

たまに見せるよく見ないとわからないほどの優しく微笑んだあなたに


私は確かに恋をした



そして、


そんなあなたと結ばれて幸せだった


けど


幸せはそう長くは続かなかった


だって私は只の一般人だもの



いつからだろう


キスをしなくなったのは

いつからだろう


抱かれもしなくなったのは


いつからだろう


他の女性の香りをつけて帰ってくるようになったのは


いつからだろう










唄を求められなくなったのは




私はベッドの上で今までの事を思い返していた


するとシャワー室から扉が開く音がした


私は慌てて寝たふりをする


コツンコツンと響く足音

そして足音はやみ代わりにベッドの軋む音が響く

そして暫くすると浅い寝息が聞こえてきた

前は一緒に寝ていたベッドも今では別々

手を伸ばせば届くほどのその距離は私にはまるで海の地平線の先に感じた

『ねぇ、ローさん』

私は眠ってる彼に小さな声でいった







私はあなたのなんなんですか?





『・・・よし』



***


『ベポ早く早く!』


「だ、ダメだよナマエ!そんなに走っちゃ!!」


安静にしなくちゃいけない私だけど次の日私はベポと一緒に街へと出掛けた


ローさんにはばれないようにローさんが出掛けたあとに出た



久しぶりに浴びる太陽はとても眩しく暖かかった

「ねぇナマエ、やっぱり帰ろうよ?安静にしてないと身体に負担かかっちゃうよ」


『ありがとうベポ、けどお願い、私どうしてもやりたいことがあるの』


ナマエの真剣な顔にベポは頷くしかなかった

「危なそうだったらすぐに船へ帰るからね」

『!!、ありがとうベポ!』



ーーーーー


「ねぇ、ナマエいったい何がしたいの?」


早く用事を終わらせて帰ろう?そう急かしていうベポにナマエは誤魔化すように笑っていった



『その前に何か買い物しよっか!』


「あっ!ナマエ!」



「よう嬢ちゃん買い物かい?なら、見ていかないかい?珍しいもの沢山だよ」


『うわぁ、本当だ、見たことないものばかり』


「もうナマエ勝手に行かないで!」

プリプリ怒るベポにナマエはゴメンゴメンと笑って謝った



『ん、これは?』


「おっ、嬢ちゃんお目が高い!これは空島しかない貴重品だ!」

安くしておくよという店主に笑ってナマエは言った



『これください!』


***



「ナマエ急にどうしたの?」

誰もいない砂浜に連れてって、って


『ベポお願い』


「なに?」



暫く1人にしてくれないかな?



「えっ!?む、無理だよナマエに何かあったらどうするのさ!」


ベポは慌ててそう言うがナマエは頑なに首を横に振らなかった


どうやらこの優しいシロクマは普段から優しくしてくれるナマエには特に甘いらしい


とうとうベポの方が折れた


『・・・ありがとうベポ』


そう言ったナマエはどこか儚く海へ消えてしまうような笑顔だった



***



辺りはもう暗くなり、明るい街は夜の街へと変貌した


そしてナマエはそんな街へと1人で歩いていた

ベポと一度船へと帰り、そしてまた、今度はベポにバレないように今度は1人で夜の街へと出かけて行ったのだった


そして、ナマエは目的の場所へと訪れた


そこは酒場だった


ナマエはいざ酒場へ入ろうとしたがどうやらその必要はいらなかったらしい


ナマエの目的の彼が酒場から出てきた


その隣にはモデルのような美人を連れて

彼女は嬉しそうに綺麗な瞳を潤ませ彼の腕へと絡み付いた





ズキンッ






あぁ、実際に見てみると辛いなぁ



ただ腕を組んでるだけでこんなにも胸が痛むなんて・・・




これからそれ以上のこともきっとするのに




ごめんなさいローさん

あなたの前では聞き分けのいい女でいたかったけどどうやら無理みたいです





『ローさん!!』

ローはその声にいち早く反応した

隣の女は急に立ち止まったローにロー?と呼んだ

ナマエはそんな事を気にせずにニコニコと貼り付けた笑みでローへと近づいた


ウソ、ホントはとても気にしてる

貼り付けた笑みもちゃんと笑っているのかも心配だった


けど、もう後には引けない

「・・・テメェ、なんでここに『ローさん!』


ナマエはわざと被せるように言った


『ローさん!見てください私歩けます!今日も昼間から出掛けてました』

ローはそんなナマエの言葉に眼を見開いた


『私大丈夫です!もう1人でも生きていきます、ほらこんなに元気でしょ?』

私は一度クルリとその場で回って笑って見せた

『だからもうわ「外したのか?」えっ?』


「点滴を外して、・・・薬も何も飲まずにお前はここにいるのか」


そういったローさんの顔はいつになく真剣な顔をしていた


あぁ、やっぱり

私は隠さずに言った


『・・・えぇ、外しました、薬も飲んでいません』


そういうとローは次こそ苛立ちを隠さずナマエの腕を強引に掴み、先程と反対の方へ足を向けた


これは女も黙ってはいなかった


「ッ!ロー!どうしたのよ急に!?そんな地味な子なんてほっときなさいよ!?」

女は突然現れたナマエにまるで般若のように顔を歪め叫んだ

そんな女にローは

「うるせぇ、消すぞ?」

「ヒィッ!」

持っていた刀を女の首へと突き立てた

『ローさん』

「あぁ?」

『やめてください』

「俺に指図するな」

『いいえ、指図ではありませんこれはお願いです』

「・・・・・・・・・・チッ。」


ローは一つ舌を打つと女に向けていた刀を下ろした

女は腰を抜かしその場で固まった


そしてローはナマエの腕を掴んだまま次こそ人混みの中へと消えていった



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