Belphegole&Mammon

□言葉じゃ、足りないよ
1ページ/1ページ


ぽかぽかと春の空気を漂わせてきた今日このごろ。ヴァリアー邸の庭には、ルッスーリアが植えた花たちが色鮮やかに咲いている。綺麗だな、と眺めていると背中から不満の声が聞こえてきた。

「ねぇマーモン。どこ見てんのさ。折角王子といるのに」


どうやら話の途中で外を向いていたのが気に食わなかったらしい。全く、我儘な王子様だ。


「いいじゃないか、別に。それに僕はこんなに君の近くにいるんだ。外を見るくらいいいだろ」

今の体勢をいうと、僕はベルに後ろから抱かれている勿論手は僕のお腹。そして顔は僕の肩に位置している。ベルの髪や吐息が微かに顔や耳に触れるからくすぐったい。が、そんなことは口に出したら負けだから言わない。
べたべたくっついて少し鬱陶しいけど、拒否はしない。それは、ベルには虹戦や未来戦で迷惑をかけたから。それと僕自身もこの体勢が嫌なわけではないからだ。



「なぁマーモン」

「なんだい」

「ジャッポーネにさ、ピンクのでっけぇ木があんじゃん。あれ、なんだっけ名前」

「あれは桜、だね。どうしたんだい、急に」

「んー、いや、前に行った時あったからさ。ちょっと気になっただけ」

「ふぅん…。あ、そういえばベル。花にはそれぞれ花言葉があるんだよ。知ってる?」

「なにそれ。王子知らね。マーモン教えてよ」

ベルはそう言いながらマーモンの髪に軽い口づけをする。少しだけくすぐったくてベルを軽く睨むが当人は口を歪めるだけ。その様子にマーモンは軽い溜息をつきながら花言葉について話す。


「例えば、イタリアで春に咲くモミザ。あれは真実の愛。アネモネは儚い恋。あぁ、あと桜は淡泊。他に私を忘れないで…ってのもあるらしいね」

「ふーん……。あ、ねぇマーモン。ホトトギスって花の花言葉は?」

「ム、ホトトギスかい?あれは確か、『私は永遠に貴方のもの』だね・・・。どうしたんだい?」

「いやその花をさ。スクアーロがボスにでっかい花束にしてあげてたんだよ。」

「…ベル、それいつの話だい?」

「んー…、確か昨日」

「そう・・・・・」


これはあまり聞いてはいけない情報だったな。自分の仕事の上司の恋路なんてあまり知りたいものではない。前に一度、あの2人のいちゃつきを目にしたことがあるが、とても気まずかった。そう、思い出しているとまたベルが不満の声をあげてきた。

「なぁマーモン。こっち向いて」

そういうとベルは僕の身体をくるりと回転させ、ベルと向き合う形になった。顔が近いなぁ・・・。なんて暢気に考えていた。

「マーモンはさ。王子の事、嫌い?」

「…なんで急にそうなるんだい」


本当に、なんで急にどこでそんな考えになるんだろうか。僕が嫌いな相手に無料でこんなに密着するわけがないのに。するとしたら金をとるよ。僕はちゃんとベルが好きなのに、それにベルは気づかないのかな。こんなに、ベルのことが大好きなんだけどな・・・。


「ねぇ、なんでそうなるんだい?」

「だってマーモン、俺と話ししててもすぐ他の事考えるじゃん。」

「はぁ…。それだけで、僕が君の事が嫌いだと思うの?」

「違うのかよ」

「違うね」

「……何が違うんだよ」

珍しく弱音な声を出すベル。さっきまで楽しく喋ってたはず、なんだけどなぁ。本当に、困った王子さま。


「ベル。1回だけしか、言わないからね。よく聞いといてね」

「・・・?」

「僕はね、ベル。僕は、その、君の事が…大好き、だよ…」

最期の方はかなり小声になってしまったが、常人より優れているベルならちゃんと聞こえた筈だろう。その証拠に顔が少しずつ赤くなっていく。


「っマーモン!好きだよ、好き。超好き、大好き、愛してるよ、マーモン」

「なっ、ちょ、べ、ベル…!分かった、分かったから力緩めて、くるし・・・っ」

「しししししっ♪やーだよ。ぜってぇ離さねーし♪」


そう言いながらベルは抱きしめる腕の力を更に強める。苦しいけど、今はそれより嬉しい、という気持ちの方が勝った。
愛している人に抱きしめられて。愛の言葉を囁かれて。すごくすごく、幸せ。だけどたまにこの幸せが怖くなる時がある。それはきっと少し前まで呪われた赤ん坊として何年も時を独りで過ごしていたからだろう。
不安になった僕に気づいたのかベルは静かに僕を離し、

「大丈夫だよマーモン、ずっと俺が一緒にいてあげるからね。」

そう言って唇をあわせてきた。いつもとは違う、幼稚なキス。

「俺は、これから先マーモンを離すつもりなんてないから。だからマーモンは王子の傍から離れちゃだめ。もし離れたら殺す」

「ベ、ル…」

そんな、いつも通りの理不尽な言葉を言っていつも通りのまるでチャシュ猫のような笑みを浮かべたベル。それを見ると酷く安心する。自分が心配することなんてない。この王子様は僕を置いて離れてしまうなんてことはない。
安心すると、酷く目の前の彼が愛しくなって珍しく自分から抱きつきキスをした。ベルは一瞬驚いていたけど、すぐに優しい笑顔を浮かべて強い力で抱き返してくれる。



「愛してるよ、マーモン」

「僕もだよ、ベル…」


END

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ