裏僕小説その3
□ルカとルカ×夕月「びたーorすいーと〜甘いルカと甘くないルカ〜」
2ページ/5ページ
「マジかよ…ルカが二人いるぜ…」
朝食時の食堂では、口をあんぐりと開けた皆がルカを指差して固まっていた。
「異様な光景だね…。あっ、あれだ!鎌倉戦の時に会ったという、ルカくんの弟さんだネ!?いや〜どうも初めまして〜館長の橘です」
さっそく現実逃避に走った橘さんは、片方のルカをルゼさんと思い込んで握手を求める。
「ヤメロ気色悪い」「俺に触るな」
背丈も声も、髪のクセから瞳の色まで、なにからなにまで一緒。
見分けをつけるために、黒と白のシャツを着てもらったけど、ルカのクローンか、分裂したとしか思えない。
「昨日って…ワルプルギスだったっけ?年に一度、分裂する日でもあるのかい?」
「「あるわけないだろう」」
自分と同じ顔を見たくないのか、お互いに背を向けて、二人のルカは終始不機嫌そうに、壁に背をついて腕を組んでいる。仕草まで一緒だ。
「どうしてルカは二人になってしまったんでしょう?」
もっともな僕の質問に、皆はうーんと唸ることもなく、「そんなの決まっている」と納得の表情をしている。
「ルカにとっては不測の事態。つまり故意に分裂させられた。……犯人は、ひとりね」
リアちゃんの、名探偵のようなポーズに、僕はぴん!と思いつく。
「あっ、もしかして、彌涼先生?」
ルカとルカのこめかみにピキッと青筋が浮かび、射抜くような視線を橘さんに向け、
「「あいつはどこにいる」」
と、ドスの効いた声で詰め寄った。
「ちょっ、ルカくんとルカくん、落ち着こう、ネっ?いや実はね、ドクターは昨日から行方不明なんヨ」
「行方不明…?」
「昨日の夜、ドクターのお部屋に行ったらね、『新薬開発に必要な材料を探す為、二、三日旅に出ます』って書き置きがあったんヨ」
「この館に彌涼先生の気配はないから、たぶん外に居るんだと思うよ」
「九十九が言うなら間違いないな。しかし、ルカが簡単に一服盛られるとは思えないが…どうなんだ?」
愁生くんの問いに、やはり不機嫌そうに白シャツのルカが答える。
「当たり前だ。昨日はあいつと会っていないし、変わったものも口にしていない」
「じゃあ、ルカが増えた原因は分からないのね…」
「こいつが二人もいるなんて、マジ勘弁だぜ。一人でもウゼーってのに。おい、すぐに元に戻るんだろうな」
ルカと犬猿の仲の焔椎真くんは、お互いにガンを飛ばしあって一触触発の状態だ。
ルカが二人いると、なかなか迫力があるなあ。ちなみに遠間さんは先程から怯えて厨房から出てこない。
「だが、戦闘要員が増えるのはありがたい。まさか戦闘能力も半分になった、ということはないだろう」
「取り敢えず、少し様子を見たらどうかな。急にそうなったなら、また突然戻るかもしれないしね」
さすが黒刀くんと千紫郎さん。冷静な判断です。
「ねえルカ、本当になにか心あたりはないの?昨日はなにしてた?」
「昨日?夜はユキとセッ…」
「わあーっ!ルカ!」
黒シャツのルカが平然と公言しそうになるのを慌てて止める。
ルカはどんなに恥ずかしいことも、皆の前で言ってしまうのだから心臓に悪い。
「夕月とせ?なんだよ、なにしてぐふっ!」
訊きかえそうとした焔椎真くんのお腹に、愁生くんが肘鉄を入れるところを視界の隅で目撃してしまった。
「まあとにかく、今日一日は様子を見ることにして、明日になっても戻らなかったらもう一度考えよう。ルカがいなくなるならともかく、増えたところで益はあっても害はない」
「害ありまくりだろげふっ!」
「ぐだぐだと話していても解決にならないだろ。取り敢えずお開きにして、朝食を摂るぞ」
「そうね、お腹も減ったし。あっ、後で写真撮らせてねルカ。遠間さーん、ルカの分もう一食おねがーい!」
皆がそれぞれに席に着く中、橘さんが僕の傍にきて、こそこそと耳打ちをした。
「夕月くん、今日はルカくんと二人きり…いや、三人きりにならない方がいいよ」
「えっ、どうしてですか?」
橘さんはさらに声を潜めて、意味ありげな、どこか面白そうな笑みを浮かべる。
「昨夜も激しかったんでショ?ルカくん一人でも身に余るのに、×2なんてきみの身が危ういヨ」
「―!!」
ぼっ!と顔から火が出そうになった。
ば、ばれている…。僕とルカの関係が…。
「あはは。野暮だったかな。ま、今日はなるべく皆と一緒にいるんだネ」
ぽんっと肩を叩き、橘さんはさっさと席に着いてしまう。
熱が冷めるように、両手で頬を覆っていると、ちらと横目で目が合ったルカとルカが柔らかく微笑んでくれていた。
いつもは無表情のルカも、二人きりのときはとびきり甘い笑顔を見せてくれて、ベッドの中では無口なルカが饒舌になる。
僕を甘やかしてくれるけど、実は容赦がなくて意地悪だったりする。
昨夜だって、朝方まで眠らせてくれなかった。恥ずかしい格好で絡み合って、あの綺麗な長い指に散々泣かされ……って、僕は朝からなんてことを思い出してしまうんだろう。
橘さんの言う通り、ルカ一人でも僕の体力がついて行かないのに、もしそういう雰囲気になったら危険なのかもしれない。…僕が。