裏僕小説その3
□ルカ×夕月「すきんしっぷ」
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それはある日の、朝の出来事。
黒刀くんが黄昏館に来てから、食事の時間に皆が揃うことが多くなった。
皆で食べるご飯は美味しくて、楽しくて、僕の大好きな時間でもある。
今日の朝食も、時間が不規則な斎悧さんと一緒に、全員で食卓を囲んでいた。
トーストにバターを塗っていると、ふいに隣に座ったルカが気遣うように僕に声を掛けてきた。
「‥‥ユキ、身体は大丈夫か」
「あ、うん。昨夜はすごく気持ちよかったよ」
「そうか。俺は力が強いから、ユキに痛い思いをさせていないかと心配になった」
「そんなことないよ、ルカすごく上手だった」
きっと、昨夜のあれのことを言っているんだろう。
腰の痛みは大分引いたけれど、まだ脚や腕には鈍い痛みが残っている。
それでも随分楽になった。
僕の身体のことまで気遣ってくれるなんて、ルカは本当に優しい。
腰をさすりながら感謝の気持ちを込めて笑いかけると、ルカも小さな微笑を返してくれた。
「今日もしてやろうか?」
「いいよ、ルカにばかりさせちゃうのも悪いし、さすがに激しくし過ぎたのかな。もっと自分の力量を考えて、少しずつ慣らすべきだったよ」
「遠慮をするな。俺も今度はもっと優しくする。身体の力を抜いた方がよく眠れるだろう」
「あはは、昨日も先に眠っちゃってごめんね」
「いや‥ん?なんだお前ら」
ルカが訝しげな視線を辺りに向けた。
つられて僕もテーブルを見渡すと、皆がまるで人形のように固まっている。
皆の視線は全て僕たちに注がれていて、十瑚ちゃんやリアちゃんや黒刀くんは顔を真っ赤にしているし、焔椎真くんはトーストを齧った顔のまま固まっている。
愁生くんもティーカップに口をつけたまま動かないし、九十九くんも千紫郎さんも僕を凝視している。
唯一斎悧さんだけが、顔を背けてコーヒーを啜っていた。
「えっ‥?み、みなさんどうしたんですか?」
息をするのも忘れているのか、無言の静寂が流れる。
そんな中、橘さんが肩をわなわなと震わせて、テーブルを勢いよく叩いたかと思うと、僕とルカに指先をびしっと向けて来た。
「き、きき君達!朝っぱらからなんちゅー会話してんのヨ!思わず耳の穴かっぽじって聞き耳たてちゃったじゃない!えっ、ていうかどういうこと!?君達そういう関係になっちゃってたの!?」
「えっ?橘さん、ちょっと落ち着いてください。どうされたんですか?」
「どうもこうもないヨ!ちゃんと説明しなさい!いつからなの!?」
「三日前からです」
「三日前!?そんな最近なの!?」
「はい、僕が激しく動きすぎて身体がつらいって言ったら、ルカが毎晩してくれたんです」
「うんうん‥毎晩!?だからナニを!?」
なんだか分からないけど、僕の説明おかしかったかな。
橘さんは増々興奮して、テーブルから身を乗り出している。
すると見兼ねた斎悧さんが助け舟を出してくれた。
「夕月、肝心の単語が抜けている。ルカに、なにを、してもらったんだ?」
「なにを?あっ、そうか。あの、僕、武道の稽古を張り切り過ぎて筋肉痛になってしまったんです。それで、ルカが毎晩マッサージをしてくれたんです」
「へっ‥まっさーじ‥?」
橘さんは気が抜けたのか、口をぽかんと開けている。
すると一斉に固まっていた皆も、ほっとしたように息を吐いていた。
「なんだ、そうなのね。びっくりしたわ」
「ったく‥!へ、変な誤解しちまったじゃねーか!」
「誤解?なにがですか?」
「いいんだ、夕月は知らなくて」
「‥お前ら、下品な妄想で夕月を穢すな」
どうしてルカは怒っているんだろう。
皆は何事もなかったかのように、それぞれに朝食を摂り始めた。
やっぱり、遠間さんの作るごはんはおいしい。
ずっとこうして、皆で食卓を囲んでいたい。
幸せな日々がずっと続けばいいのに。
大切な時間を守るために、僕が出来ることはなんだろう。
考えても悩んでも、結局答えはでなくて、今日も僕は稽古に励むのだった。