裏僕小説その2
□「突撃!隣の朝ごはん」
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「さあ、今週も始まりました、元気いっぱい生放送でお届けしております“突撃!隣の朝ごはん”私、リポーターの『夢野中めたれ』と申します!この大きなしゃもじ…ならぬ、大きなお箸を持ってお宅の朝ごはんを覗きに参りますよ〜!」
「今週は裏僕町祗王地区にお邪魔しております!祗王グループのお膝元だけあって高級住宅街が並んでいますね〜。さあ、さっそく一軒目のお宅にお邪魔してみましょう!朝の忙しい時間帯ですが取材に応じて下さるのでしょうか!」
ぴんぽーん♪
「はーい、どちら様ですか?」
「おはようございます!“突撃!隣の朝ごはん”です!あなたのお家の朝ごはん、紹介してください!ちなみに取材拒否は出来ません!」
「えっ、わあーっ!テレビで観ているあの番組ですか?すごいなあ、家にも来るなんて」
「おーっと一軒目から好意的な反応です。なんていい子なんでしょう!取材OKということですね、ね!あなたのお名前は?」
「あ、僕は祗王夕月と言います。職業は専業主婦です」
「お名前も可愛いですが容姿も可愛らしいですね!」
「そっ、そんなことないです」(カアーッ)
「ユキ、こんな朝早くに客か?」
「あっ、ルカおはよう」
「こちらはご主人でしょうか?なんと!テレビの前の奥様方、御覧になっておりますか?ものすごい美形の外人の方がいらっしゃいます!お国はどちらで?」
「…おい、なんだお前ら」
「この人達は“突撃!隣の朝ごはん”ていう番組の取材の方だよ。あ、彼はルカ=クロスゼリアです。僕の‥だ、旦那さんです」(カーッ)
「照れる姿がなんとも初々しいですね!ひょっとして新婚さんですか?ご主人とは名字が違いますが入籍はまだなんでしょうか?」
「はい、もうすぐ籍を入れようかなって。式はもう済んでるんですけど」
「形式や紙切れは俺にとって意味などない。俺はユキを愛している。それだけだ」
「ルカ‥。でも僕はルカと本当の家族になりたいから入籍のタイミングも大事だって思ってるよ。その…祗王ルカって、同じ名字になるんだし」
「ユキ…」
「ルカ…」
「かーっ!あてられてしまいますな!お二人の新婚生活は後程たっぷりと伺うとして、時間もあれなので朝ごはんの紹介をして頂けますか?」
「あ、すみません!ではダイニングへどうぞ」
「今日の献立は、白いごはんとわかめとお豆腐のお味噌汁、鰺の開きとほうれん草のおひたし、玉子焼きとうさぎ林檎です」
「素晴らしいです!これぞ日本の完璧な朝食、主婦の鏡です!ご主人の為に毎朝早起きして作られているんですか?」
「はい、ルカの体が第一ですから。皆さんも良かったらどうぞ」
「私達もよろしいのですか?では、お言葉に甘えてご一緒させていただきます!」
プルルルルーッ。
「はい、もしもし。はい、お待ちください。ルカ、華殿津唖常務からお電話です」
「―俺だ。何?…ちっ、分かった」
ガチャリ。
「ユキ、すまない。急ぎの件ができた。もう出掛ける」
「そうなんですか‥お仕事なら仕方ないですね。あっ、おにぎり作りますから行きながらでも食べてください」
「ありがとう。夕食までには必ず戻る」
「はい、待ってます。あ、ネクタイ直しますね」
「ご主人、ここで慌ただしく会社に向かう様です。ここで新妻がご主人のネクタイを直すという、なんとも微笑ましい光景です!完全に取材陣は蚊帳の外!二人の世界が広がっております!」
「ウルサイぞ、お前」
「はい、出来ました。いってらっしゃいルカ。あ、お弁当も持ってくださいね」
「ありがとう、ユキ」
「…ん?ルカ?」
「ユキ、いってらっしゃいの“キス”がまだだが?」
「えっ!今するの!?恥ずかしいよ‥皆いるのに‥」
「い〜え、私達にはお構いなく!新婚さんの特権です!ささっ、遠慮なくどうぞ!」
「ううっ…カメラに撮られてるのに‥いってらっしゃい、ルカ」
ちゅっ。
「なんとも可愛らしい!ご主人の頬に軽くキスをされています!これはご主人の仕事の効率も上がりますね〜、おっと反対側にも!頬にちゅっと…ん?ちゅっと…」
「ユキっ!」
「ん‥ルカっ」
ちゅーっ!!
「わーっ!ちょっとちょっと、そんなディープなキスは止めてください!これ全国放送なんですよ!?お子さんも観ていらっしゃいますからー!」
ピーッ。
ザーッ。
“しばらくお待ちください”