裏僕小説その4

□彌涼×エレジー「秘薬を作ろう♪」
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ここは深い霧の立ち込める森の中。

夕霧の露で湿った地面には、枝の切っ先で描かれた魔法陣と、円の外側を囲むようにして、毒々しい液体の満たされたフラスコやビーカーが並べられている。

その陣の中心に、藤原彌涼は大ぶりの古びた本を片手に佇んでいた。

「……やはり、あの幻の秘薬「貴由迦琉」の完成の為には、どうしてもあの材料が必要だ」

昨夜から森を歩き続けているせいか、黒縁眼鏡の奥の瞳が疲労の色を宿している。

「早く完成させて館に戻らねば、あいつらはきっと泣いて俺を捜しに来てしまう」

今頃は自分が居なくて大騒ぎだろうかムッフッフッ、と寝不足のせいで多少おかしくなった頭で、先生がいないと淋しいと泣く彼らの姿を想像しては、不気味に笑っている。

彌涼は昨夜、黄昏館に書き置きひとつ残して、幻の秘薬を完成させるための材料探索に出掛けていた。

しかし一晩歩き回っても、古書に書かれている素材のひとつがどうしても見つからず、こうして森の中を彷徨っている、というわけだ。

「うーむ。ここはひとつ、グリムワールの力を借りて悪魔を召喚するか。いやしかし、俺も一応祇王一族だしなあ……」

悪魔の力を借りれば手っ取り早いのだが、そんな軽率なことをすれば天白に大目玉を食らう。

そして自分には、悪魔をかしずける戦闘能力がないことも分かっていた。



彌涼がうーんと唸っていると、どこからともなく甲高い女の声が響いてきた。

「なんだ?この耳に障る安いAV女優のような声は」

具体的な感想を述べて辺りを見渡すと、突然ビシッ!という衝撃とともに彌涼の頭が叩かれた。

「痛っ!なんだ、木の枝でも跳ねてきたのか?」

頭を押さえて首を巡らせると、今度は足首にツタのようなものが絡まり、手前に引っ張られると同時に尻餅をつく。

「うわっ!今度はなんだ?」

「この私の美しい声が、なんですって?小汚い三十路男」

濃霧をかき分けて現れたのは、プラチナブロンドに濃いメイクが印象的なエレジーだった。

上級悪魔らしく、薄暗い辺りの中でも艶っぽい色香を放ち、ルージュを差した口許を不機嫌に引き結んでいる。

彌涼はエレジーの出現に驚いたようだったが、すぐに立ち上がって落とした古書を拾い上げた。
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