紹介
□勿忘草
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勿忘草
勿忘草の花言葉は、その名の通り私を忘れないで
なぜそんな意味なのかは分からないけれど、俺はこの花が好きだった
俺には弟がいる
一緒に暮らしたことはなかったけど大切な弟がいる
五歳離れたその弟と、会う事はほとんど許されなかったけど、少ない時間でも大切に楽しく遊んでいた
会うのは絶対に、とある家
俺が住んでる家でも、弟が住んでいる家でも無い
会うのは勿忘草の咲く、この季節だけだった
庭にはたくさんの紫の花一つが咲いていたのは覚えている
関西の方に住んでいる弟が訛りの入った喋り方で楽しそうに話すのを、俺は聞いて相槌を打つ。話しが終わったら次は俺が話して
その繰り返し
それを何年も続けた
ある時、その家に行く途中に俺は死んだ
事故だったのかなんだったのかは知らない
けれど、よく覚えていたのは目の前に転がる、弟の高校祝いのプレゼントが入った箱だった
すぐに救急車が来て一日だけ生きた
白いベットの上に寝てて、耳元では弟の泣く声がしてたけど、力が入らなくて何も言えなかったのが、凄い悔しかった
で、気がついたら死んだ場所に居た
手を見ると地面が見えて、あぁ、死んだんだなぁって言う感想を持った
そして、自分の記憶が無い事を知った
『ねぇ、紫姫、もしねー、俺が今まで記憶が無かったって言ったらどうする?』
「ん?いや、別にどうもしないけど…だって、私はその記憶のなかったレイさんと関わってきてたんだもん」
小指から連なる赤い糸をいじりながらそう言うと、首をかしげながら答えてくれ。なかなかに嬉しいことを言う彼女を見て、口角が少し上がるのが分かる
『俺はね、20の時に多分事故で死んだ可哀そうな男なんだよ―。でね、その日はた―いせつな弟に高校祝いのプレゼントを渡すからって、ある所に向かってたんだけどね、乗ってた車が何があったか知らないけど横転して、うちどころ悪くて死んじゃったんだよ。多分、俺がこんな幽霊になったのはさ、弟にプレゼント渡せなかったからだと思うんだよねー』
「はぁ、それは何と言うか、相当なブラコンですね」
ま、私も否定できないんですけどね
と言いながら照れたように笑う
確かに、紫姫の藍都君に対する姉弟愛は異常である
彼氏は良いけど彼女はダメって、この子ほんと怖い
『でね、俺の弟君はさ、君がドキューンした南 琥太郎なんだよ―』
「ドキューンって何!?」
『あ、そこ取っちゃうのね!』
つか、そうか―…
やっぱりこの子は気付いてないか―
いや、普通は気付かないもんなのかね?
『そこはそのうちコタから何かあるよ―うん。多分。つか、無かったらあの子を祟るわ』
「なんで!?」
もしかして、俺ってこの子らが付き合うまで成仏できないのかな?
ちょっと不安になったり
何時か二人には勿忘草の花言葉でも教えて上げよう
知っているだろうけれど
私を忘れないで