紹介
□秘密の場所への
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秘密の場所への
また、この季節が来たなぁ
ベットの上で、そう呟いた
梅雨が近づき始め、少しじめじめとしたこの感覚
六月十日
あの人の時を止めてしまったこの日
あの人が今という時を進めさせてくれたこの日
手を掲げ、不思議な線を描くキズアトを見ていると、コンコンとドアをノックるす音が室内に響き、百佳さんの声が聞こえた
「開いてるんでどうぞ入ってください」
「こんにちわ」
ドアを少し開け、ヒョコッと顔を出す
相変わらず可愛いですね
「こんにちわ。どうしたんですか?」
「んーっとね、一緒に行きたいところがあってさ」
時間ある?
聞いているのに何処か強引な言い方
少し驚くも、無意識のうちにうなずいて出かける服に着替える
「ごめんね、なんか無理矢理連れ出しちゃって」
少し高い位置にある百佳さんを見上げ、目線を元の位置に戻す
どこか悲しげのその眼は、私と藍都がこの時期によくなる目と同じだったから
「別に、暇だったし、大丈夫ですよ」
多分、私もこの目を今、してるんだろうな
着いた場所は神社の奥にある林の中の、少し開けた場所
この季節には珍しく太陽が照っていて、キラキラと照らしていた
「ここはね、毎年四月になると桜草って言う赤紫っぽい色の花が一面に咲くんだよー」
「そうなんですか…」
ここ一面に花が咲いていたら、どんなに綺麗か…
それも四月というのだから、もう枯れてしまっているからみることもできないけど
でも、なぜ、今連れて来てくれたのだろう?
普通なら四月の旬の時期に連れてくると思うけど…
百佳さんのその不思議な行動に、首をかしげる
「ほんとはね、四月の満開の時期にさ、連れてこようって思ってたんだけどね、踏ん切りがつかなくって、嫌われちゃうと思ってさ」
手を引っ張られながら、中央の、花が咲かないであろう場所に連れてこられる
どうやら持ってきていたのであろうシートを引きながら、百佳さんがポツリポツリと話しだす
「でも、今日、紫姫ちゃんの目を見て踏ん切りついたの」
「目?ですか…」
「そう、私と同じ悲しい目」
パチリと瞬きを一つする
頭をなでるその手つきが、とても眠くなる
だけど、百佳さんが言ったその一言に、眠気なんて吹っ飛んだ
「ここはね、私と優子の秘密の場所なの」
「…え」
「私と優子のこの秘密の場所に、紫姫ちゃんを招待します」
だから、一緒に乗り越えようよ。あと、藍都君も一緒に
そう言って笑う彼女を見て、思わず泣いてしまった
一人より、二人で二人より三人
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