書庫

□爪痕
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温かなアランの唇が、背中の爪痕を辿る。

「ごめん・・・エリック」

アランが話すと柔らかな吐息が掛かる。

「痛かったかい?」
「少し、な」
「ほんと・・・っくしゅ」

その時、アランがくしゃみをしたので、甘い雰囲気は吹っ飛んだ。

「おっと!このままだと風邪ひくな。シャワー浴びよう」

アランを促し、バスルームへ向かう。

「ちょ・・・二人で?」
「今更、恥ずかしがる事、ないだろ?」
「でも!」
「ほら、早くしないと本当に風邪ひくから」

アランをバスルームに押し込んだ。



「嫌、だ・・・エリック・・・恥ずかしい」
「明るいからか?」

「そうだよ。君はいいよ?鍛えられて、綺麗な筋肉ついてるから・・・でも、おれは・・・っ」

チュッと唇に音を立てて口づけられた。

「そんな事、気にしてたのか?」
「そんな事、って」

そう。
アランにとって、自分の華奢な身体は、コンプレックスだった。

「お前は綺麗だ・・・アラン。すんなり伸びた手足に、
それなりにしっかり筋肉がついてるし、腹も引き締まってる。
肌も白くて、しっとりしてて、つい、触れたくなる。なぁ、アラン・・・綺麗なお前をもっと見たい。見せてくれないか?」

エリックの瞳にからかいの色はなく、真剣に言っているのがわかる。

「・・・エリック」

熱い眼差しに、呑み込まれる。
まるで魔術に掛かったかのように、気がついたら、頷いていた。



シャワーが首筋から胸、腹、脚へと何往復も掛けられ、最後に、既に頭をもたげ始めている自身に、
下から水圧を高めたシャワーを当てられ、高い声を上げてしまう。

「それ、もう・・・やだ・・・っ」

そう言っている間に敏感な先端にシャワーが移動し、呆気なく、熱を放ってしまった。

「早いな・・・まだ、これからだっていうのに。ほら、後ろ向いて・・・こっちも綺麗にしないとな」
「ちょっと、エリッ、ク・・・ぁ」

シャンプーか何かわからないが、液体を纏った指が、中に忍んできた。

ぐにぐに、探るように動く。
鉤状にした指で柔肉を引掻かれ、バラバラに動いていた複数の指が、ぬるり、と引き抜かれた。

「・・・ァ」
「もう、いいか?」

言葉と共に熱い塊が、押し当てられると、
誘うように腰がくねってしまう。

「いい、よ」

大きな手で、腰を引き寄せられ、ゆっくり、エリックが入ってくる。
アランを傷つけないよう、ゆっくりと。


「はっ・・・ぁ」

壁に頬と両手をつき、目を閉じる。
火照った肌に、タイルの感触が心地よい。

「んんっ!」

エリックが、腰を打ちつけてきた。
その衝撃に耐えようと、タイルに爪を立てると、エリックが手を包むように、握ってきた。

「爪、立てるな。指が傷つく」

耳朶に唇を触れさせ、低く囁かれたら、堪らない。
腰の奥から、疼くような熱が生まれる。

ぺたり、と上半身を壁に預け、下半身はエリックに支配されている。

「あ、っふ」

反響する声に煽られ、いつも以上に高ぶるのがわかる。

「気持ち良いか・・・アラン」
「気持ち、イイ・・・エリックは?」
「イイに決まってる」

項に舌を這わせ、耳朶に甘く歯を立てる。

「アラン、綺麗だ・・・肌がバラ色に染まって」

終わりが近いのか、アランの足が浮き上がりそうになるくらい、激しく突き上げてくる。

足元で、お湯が跳ねる。

「ん、あ・・・アッ!」
「く、っ」

アランが達すると、アランの手を握るエリックの手に力が篭り、どくり、と熱が中に放たれた。


身体の向きが変えられて、正面から抱きしめられる。

「はぁ・・・っ」

額をエリックの胸に預け熱い息を吐き出す。何気なく下を見ると、
白濁がお湯と共に排水溝に吸い込まれていくところだった。

まるで、アランのコンプレックスと共に消えていくようだ。

華奢な身体が好きじゃなかった。
けれど、今は、少しだけ、好きだと思えるようになった。
エリックが、綺麗だと言ってくれたから。

アランは、小さく笑った。

好きなひとの言葉は、影響力が半端無い。
我ながら、単純だ。

「なに、笑ってるんだ?」
「ん・・・なんでも。それより、なんだかクラクラしてきた」
「悪い!のぼせたな」

エリックがアランを抱き上げる。

逞しい腕の中で、アランは眼を閉じた。

今までより、なんだか心が軽くなったのを感じながら。
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