書庫

□満ちる夜
2ページ/6ページ

「・・・眠い」

昨夜、色々考えてしまい、よく眠れず、危なく遅刻するところだった。

「お、アラン!おはよう。珍しいな、お前が俺より遅いなんて」

回収課のオフィスに向かう廊下の途中、背後からエリックに声を掛けられ、飛び上がりそうになった。
声が、裏返ってしまったが、かろうじて、敬語を忘れなかったのは習慣だろうか。

「エ、エリックさん!・・・お、おはようございます」
「どうした?なんだか、朝っぱらから、疲れてているみたいだが」

熱でもあるのか、と額に伸ばされてきたエリックの手を思わず払ってしまった。

「やめ・・・っ」
「アラン?」

少し驚いたような顔をするエリックから、視線を逸らす。

「すみません・・・失礼します」

頭を下げ、自分のデスクに向かった。

大きく深呼吸して、書類に目を通す。
仕事に集中しようと思った。けれど・・・


「あっ!」
ファイリングしようとした書類の束を床にぶちまけた。
今朝から、ケアレスミスの連続で溜息が出る。

日付を確認しながら、拾い集めていく。

「ほら、これ。あっちまで飛んでたぞ」
「あ、ありがとうございます・・・って、エリックさん!」

ス、と差し出された書類を受け取りながら、顔を上げるとエリックが、そこにいた。

「手伝ってやるよ」
「すみません。ありがとうございます」

一枚一枚、拾い集めていると、エリックが話し掛けてきた。

「アラン、お前、今日どうした?具合悪いなら、帰って休んだ方がいいぞ」
「・・・具合が悪いんじゃなくて、ただの寝不足です」
「寝不足?何か悩み事でも?」

エリックが、心配そうな眼差しで俺を見た。

「悩み事、というか」
「俺で良かったら、相談にのるぜ」
「エリック、さん」

そうだ。この事は、他でもないエリックと話し合う必要がある。
そう判断したおれは、小声でエリックだけに聞こえるように言った。

「あ、あの・・・今日、家に来ないか?話たい、事が」
「お前ん家に?わかった。いいぜ」

エリックは立ち上がり、ポンポンとおれの肩を軽く叩いた。

「何、悩んでるか知らねぇが、あんまり難しく考えんな。それじゃ、後でな」
「・・・はい」

エリックの後ろ姿を見送って、ファイルを棚に戻した。
エリックに話したら、少しだけ楽になった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ