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□休日前夜
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死神、という仕事には、誇りを持っている。
けれど・・・

定時になり協会の建物を一歩外に出ると、
おれは、黒い革手袋を外し、懐にしまった。

別に、これからどこかに遊びに繰り出すわけではない。

ただ、死神の証である革手袋を外す事で、普段の自分に戻りたいのだ。

そう・・・ひとの生だとか死を考えないでいい自分に。




そろそろ一番星が輝き出しそうな空を見上げていると、誰かの駆けてくる足音がする。

足音だけで、それが誰なのか、わかってしまう。

「アラン!悪い、待たせた」
「いや、そうでもないよ・・・行こうか」

息せき切って走ってきたエリックに、笑みを向ける。

今日は、エリックと夕食を共に食べる約束だった。




最近できたばかりの店だったが、評判通りの美味しい店で、おれ達は二人共大満足だった。

「美味しかったね」
「ああ、また来よう」

店を出ると、すっかり夜の帳が下りていた。

夜空を見上げれば、
白金色の月と、キラキラ光る星々。

「明日、天気良さそうだね」
「そうだな」

そんな会話を交わしながら、
街灯の少ない暗い道を歩いていると、
そっと、エリックが手を握ってきた。

「ちょっ・・・エリック」
「暗いからわからないさ」
「それは、そうだけど・・・誰か来たら離すからな」

そう言いながら、エリックの素手の感触が心地良くて、自分からは離せそうもないな、と思う。
だから、結局家に着くまで繋ぎっぱなしだろうな、と想像する。

自分と同じように、革手袋をしていないエリックは、死神ではなく普通のエリックで
・・・自分だけのエリックなのだ。

おれだけの、エリック

それが、嬉しい。

「ご機嫌だな。アラン」
「そうだね。ご飯美味しかったし・・・なんと言っても、明日は休みだしね」

「ただ休みだから、嬉しいのか?ん?」

エリックが、顔を覗き込んできた。

その顔が、ニヤニヤしている。

「もう・・・わかってるくせに。君と一緒の休みだから、に決まったいるだろ」
「よく言えました!」
「わっ・・・ちょっ・・・やめ!」

大きな手でワシワシと髪をかき混ぜてきた。
お陰で髪がぐしゃぐしゃだ。

「楽しい休みにしような」

子どものように笑うエリックにつられ、おれも笑った。

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