書庫

□しあわせのかたち
1ページ/3ページ

終業時間間際、庶務課に報告書を提出して、回収課に戻る途中、
栗色の巻き髪の女性が誰かに話し掛けているのを見掛けた。
華のある女性で、男ならば言い寄られて悪い気はしないだろう。
相手の姿は、柱の影に隠れて見えない。

「・・・あなたが好きよ」

突然聞こえてきた女性の言葉にアランは驚いた。

どうやら告白の場面のようだ。

大胆な女性もいるものだと思った。


しかし、困ったな

アランは胸中で呟いた。

この先が回収課なのだ。


少し待つか、それとも、一階上って、反対側の階段を下りてくるか・・・

待つのは、なんだか気まずいので、アランは踵を返し、階段を上ることにした。その時、

「だから、私と付き合わない?エリック」

聞こえた名前に、アランは足を止めた。

「悪ぃな・・・俺は、もう心を捧げてるやつがいる」

姿の見えない相手の返事が聞こえた。

アランは息を呑んだ。
そして、そのまま走って、その場を離れた。


「かったりー・・・」

回収課のオフィスに戻って、アランの姿を探す。
が、姿が見えない。

「ん?いない・・・帰ったのか?」

終業の鐘は鳴った後なので、帰っていてもおかしくはないが。
アランのデスクを見ると、筆記用具などが出たままになっている。
几帳面なアランが、こんな状態で帰るはずはないので、まだ協会内にいると思われた。
なので、近くにいた残業組に声を掛ける。

「アラン、どこ行ったか知らねーか?」
「アランさんですか?さぁ、さっき報告書提出に行ったみたいですけど」
「そっか。サンキュ」

エリックは、オフィスを出て、庶務課へ向かったがアランは、いなかった。

「アランのやつ・・・どこ行った?」

思い当たる場所を見て回ったが、どこにもいなかった。
廊下を早歩きで歩いている途中、窓の外に、見知った人影が見えた気がした。

「アラン?」
エリックは走り出した。

階段を駆け下り、協会の外に出ると、雨が降っていた。

エリックは舌打ちした。
こんな雨の中、外にいたら体調を崩してしまう。

「アラン!」

先程窓から見えた協会の裏手に向かうと、樹に寄りかかっている誰かの姿があった。

「アラン!ここにいたのか」
「・・・エリック」

名を呼ばれて、アランが顔を上げた。
一瞬、アランが泣いている様に見えた。

「どうした?なんで、こんなとこに・・・まぁいい、とりあえず中、入ろう・・・な?」
「・・・うん」

アランの肩を抱いて、協会内に向かった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ