書庫

□ブロマイド
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いつもは会議などが行われる大きな部屋に、
多数の死神が集まっている。
が、別に大規模な回収前の会議が行われているわけではない。
では、何が行われているのかというと、今度、死神たちのブロマイドが販売されることが決まったのだ。
なんでもブロマイドの売り上げを、協会の少ない予算の足しにしようという考えらしい。
そこで、今日はそのブロマイドの撮影が行われている、というわけだ。

「なーに溜息ついてんだ?アラン」
「エリック・・・写真、ってどうも苦手で」

部屋の隅で小声で会話を交わす。

「もしかして、魂抜かれる、とか思ってないよな」
「思ってないよ。そもそも、死神のおれ達が魂抜かれるとか、そんな迷信信じてどうするんだ。
そうじゃなくて、なんか緊張しないか?」
「んー・・・別に?」
「だいたい、楽しくないのに笑え、とか無理」
「それは、まぁな」
「だから、大抵、変な顔で写ってるんだ」
「それは・・・写真屋の腕が悪いんじゃねぇか?」
「そうかな」
「たぶん・・・にしても、アイツはノリノリだな」
「本当に」

今、撮影しているのは、赤い死神だ。
身体をくねらせたり、セクシーな表情を決めている。

「お、終わったみたいだな。そんじゃ、ちょっと行ってくる」
「いってらっしゃい」

エリックの撮影の番が来た。

緊張はしないと言っていたエリックも、
堂々とした表情で撮影されている。

デスサイズを肩に担いで挑むような表情は、
惚れ惚れするほど格好いい。

「格好いい」
思わず呟くと、聞こえたわけではあるまいに、エリックは、誰もが見惚れるような笑みを浮かべてみせた。

エリックの撮影が終われば、いよいよアランの番だ。

「まずい・・・緊張、してきた」

胸の辺りで、拳を握る。

撮影を終えたエリックが、足取り軽く戻ってきた。

「アラン、お前の番だ。行って来い」
「う、うん」

ぽん、と肩を叩かれアランは頷いた。

緊張のせいか、歩き方がギクシャクしてしまう。

ライトの前に立つだけで、その眩しさにもう立ちくらみしそうだ。

「はい。では、こちらを向いて笑ってください」
「わ、わかりました」

唇が引き攣るのがわかる。

「そんな緊張しないで」
「は、はい」

もう泣きたい。
写真なんて、証明写真だけで十分だ。

その時、名前を呼ばれたような気がして、
視線をそちらに向けると、壁に寄りかかったエリックがこちらを見ていた。

エリックが、アランを見て、優しく笑う。

大丈夫だ、と言う様に。

エリックを見たら、身体の力が抜けた。

「いいですね。そのまま!」

パシャ、とシャッターの切られる音がした。



後日、出来上がったブロマイドを確認する作業が行われた。

「お、結構いい感じで撮れてる」
「本当だ」

写真の中のエリックは男らしくセクシーで、
見ていると心臓がドキドキした。
きっと、この表情に魅せられてブロマイドを買うひとが多いのではないかと思った。

「アランは・・・どれだ」
「・・・できれば見てほしくない」

こんな格好いいエリックの写真を見た後で、
自分の写真なんかみたら悲しくなるに決まっている。

「そんな事言うな、って・・・お、あった」

アランより早くエリックが写真を見つけ出した。

「これは・・・まずいな」

エリックが呟く。

やはり、と思った。
これだから、写真は嫌なのだ。

「もう、見ないで、エリック」
「あのな、アラン・・・お前、ああもう!犯罪だろ?」
「犯罪、って」
「見てみろ」

そんなに酷い写り方なのだろうか。

渡されたブロマイドを恐る恐る見てみる。
と、そこには、ふわ、と笑う自分がいた。

「え・・・これ、おれ?」
「お前以外の誰だっていうんだ?こんなかわいい笑顔!」

自分がこんな風に笑えたのは、あの時エリックが自分に笑いかけてくれたからであり、
この笑みは、エリックに向けた笑みだといっても過言ではない。

「ありがとう、エリック」
「は?」

何故礼を言われたのかわからないエリックは不思議そうな顔をした。
が、それには答えず、アランは写真をテーブルの上に戻した。

「さ、確認も終わったし、そろそろ戻ろう?」
「そうだな」

二人で回収課のオフィスに戻った。
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