書庫
□はじまり
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おれの名前は、アラン・ハンフリーズ。
死神派遣協会回収課に所属している死神だ。
仕事は、その名の通り、死亡予定者の魂を狩る事だ。
今朝も早くに出社して、タイプライターに向かって、報告書類を作成していた。
カタカタカタ、タイプライターのキーを打つ音が聞こえるくらい静かな職場に、賑やかな声が近づいてきた。
「昨日の合コン、楽しかったですね〜」
後輩のロナルドが、いつもの調子で、部屋に入ってきた。
それに続いて、俺の先輩のエリックさんが、かったるそうな足取りで入ってくる。
「一人、超カワイイ娘、いたじゃないですか。オレ、今度あの娘に連絡先・・・」
「あ、悪い。その娘、俺が喰っちゃったわ」
聞きたくなくとも、聞こえてくる二人の会話。
カタカタ、タタン・・・タイプミスしてしまった。
おれは、ムッとなり、順調に仕上がりつつあった報告書をピッと切り取ると、丸めてゴミ箱に投げ入れた。
ロナルドとエリックさんの馬鹿話は、まだ続いている。
「え、嘘でしょ!非道いですよ。この間だって・・・」
「女には、わかるんだろうなぁ、イイ男が」
エリックさんの笑い声が響く。
おれは息を吐き出した。
まったく、エリックさんはいつから、あんな女タラシになったのか。
昔は、もっと頼れる優しい先輩だったのに・・・いつの頃からか、女性をとっかえひっかえするようになった。
別に、おれには関係のない話だ。
そう思うのに、最近イライラする。
イライラすると、仕事でミスをしてしまうので、イライラする理由を自分なりに考えてみた。
そして、憧れていた先輩の、女性にだらしないところなど、見たくないのだ、という結論を導き出した。
朝礼の後、先程書き終えた書類を手に立ち上がると、その音に気がついたのか、エリックさんがこちらを見て、近づいてきた。
「アラン、回収に行くんだろ?俺も一緒に行くから」
「結構です。サポートは必要ありません」
「けど、その案件・・・」
エリックさんが、どことなく心配そうな顔をしている。
おれは内心で溜め息をついた。
いつになったら、このひとに認めてもらえるのだろう
「この位なら一人で大丈夫です。もう新人ではないんですから」
失礼します、と軽く頭を下げ、俺はオフィスを後にした。