□人魚姫
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昔から、息を長く止めるのが得意だった。

小さい頃は、海の中から、空を眺めてた。

周りの子達は誰も出来なくて、私だけが、海の中から空を見てた。

それが、とても綺麗だった。


「何してんの?」

「別に。」

「死にたいの?」

「死にたいよ・・・。」


私は、いつだって死にたいんだ。


「そんなところに立ってないで、こっちおいで。」

「もう少しだけ。」


船の先端に器用に立って、月明かりの照らす海を眺める。

海風の気の向くままに、後ろに倒れると、


「・・・まったく・・・」


そこはもう、クザンの腕の中。


「あんまり、おじさんを困らせるもんじゃないよ。」

「困らせてなんか無いよ。」

「今、現に困ってるんだけど、俺。」


海の中から見る空は、いつだって美しく太陽の光に包まれていた。

ぬくぬくとした毛布の中のような、ひんやりとした空っぽのバスタブみたいな、

そんな、海の中。


「ねぇ、クザン。」

「んー?」

「海の中から見える空、すごく綺麗なんだ。」

「そうなの。」


なら、夜は?


「月明かりの照らす海は・・・どんな感じなんだろうね。」

「・・・もう・・・海の中から空は見れないでしょ?」

「・・・私は、陸に上がってしまった人魚姫だから・・・」


力が欲しかった・・・だから、私は海を失った。


「クザン・・・死なないで・・・。」

「うん。」

「クザン・・・待ってるから。」

「うん。」

「クザン・・・」

「・・・。」


明日は、運命の日。

クザンと、サカズキが・・・戦う日。


「・・・好き。」

「・・・俺も、好きだよ。」


声を失った人魚姫、
海に戻れなくなった人魚姫、
好きな人を殺すことでしか海に戻れる道は無い、
好きな人を殺さなければ、

泡となって、消えてしまう人魚姫。


貴方を守れない力なんて・・・いらない。







人魚姫
(私が全て消し去って、そして私も消え去るの)
 

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