黒子 長編

□高校1年四月
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 京都にある私立 洛山高校は京都という土地柄に似合わず、広大な敷地面積を有する。
広大な敷地には、学生たちが日々の勉学に勤しむ学舎棟をはじめ、最新鋭の設備を導入した運動施設や、全国からの集う優秀な学生のための広大な学生寮も完備されている。学校としての歴史も古く、もとは明治初期に華族の子息を対象とした学び舎が始まりだったという。現在は全国有数の進学校であり、部活動などでも優秀な人材を輩出する名門校として名を馳せている。

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 私立 洛山高校は合計で3つの学食を有する。その学食の中で平日昼間の昼休みに最も人気のない、部活棟地下にある学食に名無し名無しは足を運んでいた。普段は弁当を持参し校舎内の空き教室で食べるのだが、今日はうっかり、炊飯器のスイッチを入れ忘れてしまい、弁当なしという結果になってしまった。別にないなら無いで最悪食べなくても平気なのであるが、朝からいつもついでに弁当を作っている隣人に苦笑されながら、「構わないけど、ちゃんとお昼は食べてね。」と言われてしまった。別に隣人はこの場にいないので食べなくてもわからないのであるが、如何せん心苦しく、しかしながら人ごみが苦手な名無しは学舎棟から離れていると理由で人の少ない部活棟にある、学食へ足を運んだのである。学食の人間も、わざわざ離れたこの学食へ足を運ぶ学生が珍しいのか、多少驚いたような顔をされたが、黙って名無しが頼んだ和食定食(ちなみにメニューは3種類しかなかった。部活のある朝・夕と休日はメニューが豊富らしい)を準備し手渡す。席も選びたい放題の状態である学食を見渡し、名無しは隅の方の席に腰掛けると、「いただきます」と手を合せ、黙々と口に運び始めた。
 特に不味くもない無難な味の定食を黙々と食していると、「失礼するよ」という声と、目の前で椅子が引かれる音がした。何度も言うがここは平日昼間に人は来ることはなく、ほとんど人のいないこの場で、あえて名無しの目の前の席を選ぶとはどういうことだろうかと、名無しはうろんげな視線で目の前に座った、人物を見やった。

 そこにいたのは赤い少年だった。
服装こそ、洛山高校指定の灰色のブレザーをまとっているが、一際目を引く深紅の髪が彼の第一印象を“赤い少年”としていた。容姿も整っており、前髪からのぞく赤と橙のオッドアイがひどく印象的であった。しかしながら見たことのない人物である。決して交友関係の広くない名無しの中にはいなかったはずであるし、人懐っこい人物というわけでもなさそうだ。そもそも、誰かと食べたいのなら友人を連れてくるだろうが、少年の友人らしき人物はいないしこのような人気のない学食には来ないであろう。少年も名無しのうろんげな視線に気がついたのか、苦笑しつつ「名無し名無しさんだね。」と名無しの名を口にした。
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