進撃 長編

□845年
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その日、人類は思い出した。

奴らに支配されていた恐怖を・・・・

鳥籠の中に囚われていた屈辱を・・・・



        ✽

それは、嫌に鮮やかな夕日が、壁に消える時間帯に起こった。
リヴァイの1年間に及ぶ訓練と最終試験を終え、調査兵団本部へ向かうための荷造りを終えた名無しさんの視界に入ってきた。
「あれは・・・煙かしら?」
南の方向に無数のうっすらとした灰色の煙が上がっていた。方向からして、名無しさんが育ったシガンシナ区の方向である。しかし、工業都市ならいざ知らず、あの方向に無数の煙が上がることなどありえない。それこそ、火災でもなければ。

『・・・・名無しさん・・・・・』

「え・・・?」
ふと、名無しさんの耳にかすかな声が聞こえてきた気がした。自身の名を呼ぶ声が。そして、その声は・・・

「お母さん・・・?」

その声は、今はここにいるはずのない、母の声に似ていた。ドクドクと嫌な予感が胸を満たし、名無しさんは無意識に胸元を握り締めた。嫌な予感がする。家に戻らなければならい予感が。
「おい、名無しさんどうした?」
ただならぬ名無しさんの様子に、そばにいたリヴァイが声をかけた。そして、上がる無数の煙に視線をやると、眉ををしかめ、名無しさんの方を見やった。
「何かが、起こっているようだな。おい名無しさん早いとこ本部にもどるぞ。」
「・・・そうね、本部なら、何かしら情報がはいっているでしょう。急ぎましょう。」
―そうだ、何も情報がない状況下で動くのは危険だ。まずは、情報を得なければ―名無しさんはそう思うことで、嫌な予感を押さえつけ、愛馬に飛び乗った。まるで血のような夕日を背にしながら。
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