進撃 長編

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技巧科 技術団とは
 立体起動装置をはじめとする、対巨人用兵器の開発・改良・修繕を主とする、技術集団である。団員は訓練兵の過程を終了したものののみではなく、様々な知識を有した人間で構成された頭脳集団ではあるが、総じて個性が強く、一部では、勉強をしすぎて頭のイカれた集団と言われている。あるいみ、調査兵団と大差のない変人どもの巣窟となっている。

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「あんたってさ、いろいろ残念だよね。」
昼食時、食事を口に運びながら資料に目をとうしていると、同じ技巧科の先輩に当たる、アリス=ルーウィルが呆れたような口調で名無しさんに声をかけた。技巧科に配属されて早半年が経過し、この先輩のはっきりモノ言う性格には慣れてきてはいたが、話の内容がわからず首を傾ける。「だからさ、」とアリスはため息をつく。
「あんた、また、憲兵団の人からの誘い断ったんだって?しかも『一緒に食事しましょう』って言われて、『私の研究室で、すすまみれになっていいならいいですよ。あとは、試作品の実験台になってくれるなら。』って言ったらしいじゃん。しかも、資料から顔も上げずに。あんた見てくれはいいのにそんなんだから彼氏できないのよ。」
「ああ。アレですか。あんなもん断り文句ですよ。さすがの私も食事くらいは食堂でとりますよ。・・・忙しくなければ。」
アリスの言葉で、昨夜のことを思い出し、名無しさんは眉間に皺を寄せながら返した。昨晩空いた時間で夕食をとろうと、廊下を歩いていた時に1つ上だと思われる憲兵団に声をかけられたのだ。生活の大半を研究に捧げている、技巧科の人間にとって、酒と権力に溺れる、憲兵団にあまり好印象ではなく、できることならかかわり合いになりたくない方々である。憲兵団たちも、奇人変人の巣窟であり、いろいろ問題を起こす技巧科とは疎遠のはずなのだが、この場合名無しさんの容姿が憲兵団と関わる機会を増やしていた。
 整った顔立ちに、抜けるように白い肌と優しげな翡翠の瞳、やや茶色がかった黒髪をポニーテール状に結わえた名無しさんは誰が見ても美少女である。加えて、華奢な体つきが庇護欲を誘うのか、ひっきりなしにこういった誘いを受けていた。しかし、さすがは変人の巣窟である技巧科、なのか名無しさんの性格なのかは定かではないが、全ての誘いを無下にしていた。「へーあんたでも選り好みするの」とアリスはやや驚いたように声をあげる。「もちろんですよ。」とやや憤慨したように名無しさんはいう。「私だって好みのタイプはいますよ。でも酒臭くて、タバコ臭のする人は論外なんです。昨日の人は出会い頭からそれでしたから。」「へえ、じゃああんたの好みって詳しく言うとどんなのよ。」と問われ、しばし考えるように名無しさんは唇に指を当てると、おもむろに答えだした。
「素直で、真っ直ぐな子ですね。正義感あふれて、強い相手にも臨んでいって、かつ、心の優しい子です。」とやや胸をはっていうその言葉にアリスは、
「なんか、意外ね。そんな人いるのって感じだけど。っていうか子ってあんた年下好みなの?」と疑問を投げかける。すると名無しさんはいいえ、と首をふりやや嬉しそうに答えた。「いますよ。私の弟です。今年で9歳になります。」
・・・アリスは思わず脱力した。
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