進撃 長編

□843年〜
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 843年―。

 訓練兵の養成所から馬車に揺られて1時間。ウォール・マリアの最南の街、シガンシナ区の地に名無しさんが足をつけると、懐かしい空気が名無しさんの鼻腔をくすぐった。昨年訓練兵となるべく家を出てから約2年間帰ってなかったわけだが、鼻腔をくすぐる匂いに名無しさんは人知れず懐かしさを感じ、肩の力を抜き、我が家へと足を進めた。

 この世界を一言で表すならば壁の中である。と名無しさんは答えるであろう。100余年前、人類の天的である“巨人”が現れてから、人類はその人生の大半を壁の中で過ごす事となり、世界と隔絶することとなった。1部分の探求者や、壁外を調査し、巨人と戦うことを主とする調査兵団などは壁外に出ることはあるが、それには多大な犠牲が必要となり、大半の人類は壁内で生きることを選んでいる。彼女の幼い弟などは、「そんなの家畜と同じだ」と憤慨していたが、大半の人間は命の保身に入るのは仕方のないことだと名無しさんは理解していた。
 

 シガンシナ区の中でも壁門からほど近い場所に、名無しさんの生家はある。久方ぶりに感じる木製のドアをノックすると、母であるカルラ=イエーガーが「おかえり。早かったね。」と破顔しながら迎い入れてくれた。変わらない母の姿に少しの安ようしていると心と懐かしさを覚えつつ名無しさんは「ただいま。」と笑顔を向けた。
 
 
 荷物を置き、カルラの出してくれたお茶を飲みながら、談笑していると、「ただいま!!」と子供らしい声とともに飛び込んでくる人があった。その人は名無しさんの姿をその大きめな翡翠の瞳に捉えると、「姉さん!!」と言いながら名無しさんに駆け寄ってくる。
「おかえりエレン。」と名無しさんは久方ぶりにあう、弟に笑を浮かべ抱きしめながら、「少し大きくなった?」と声をかけると、エレンは照れたように「そうかな?」と笑った。
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