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□1万打企画
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時は立ち週末土曜日の午前十時の少し前。日吉は名無との待ち合わせ場所である東京駅に来ていた。場所は地下鉄の通路が交差する場所で、大きな銀色の鈴がケースに入れられており、日吉のほかにも待ち合わせであろう人がちらほらと見える。先ほどから、ちらちらと日吉に視線を向けてくる人間がいるようであるが、そのどれもが女性のようであり、日吉は視線を合わせないように無視を決め込んだ。スマートフォンで時刻を確認しようと取り出すと、連絡アプリにメッセージが届いており、開いてみる。

 今日は男を見せる日やでー!俺らがついとるで安心しい!!(=゚ω゚)ノ

ぐしゃりとスマートフォンを握りつぶさなかったを褒めてほしいと思う。ていうかついてきたのかあの関西弁と罵詈雑言を内心でおせっかいな丸メガネの先輩を罵る。そして注意深く周りを見やると、通路の柱に隠れるように、変装でもしているつもりなのかド派手なマーブリングカラーの帽子を被り、どこで買ってきたといいたいほど奇抜なTシャツと丸いサングラスをかけた忍足と思われる人物と、黒いスーツにどこぞのスパイの様に黒いスーツに身を包み髪をオールバックにしこちらもサングラスをかけた跡部を思わせる人物が立っていた。確かに普段着の二人がこのような場所に居たら女性が寄ってきて大変であろうが、この場合完全に不審者である。道行く人たちは当然距離を取り、待ち合わせている人たちも彼らと目を合わせないよにしているのが分かる。日吉は自分の口元が引きつっていくのが分かった。それよりも日吉が見ているのに気が付いた忍足がぐっと親指を立て、口元に満面の笑みを浮かべているのを見て、切実にやめてほしいと思う。

「日吉君?」
背後から、戸惑うような聞きなれた声がかかり、日吉ははっと背後を振り返った。振り返った先にはやや心配そうな表情の名無が立っており、「どうかされたんですか?」と小首をかしげている。
「いや・・・何でもない。それよりも、おはよう名無。」
日吉はごまかすように、ついでに彼女の視線が背後の二人の不審者に行かないようにさりげなく自身の体で遮るようにする。そんな日吉に気が付いていないのか、くくったポニーテールを揺らしながら、名無は「はい。お待たせしてごめんなさい。おはようございます。日吉君。」と柔らかな笑みを浮かべた。


         *

とりあえず、背後の二人を、どうしてくれようと日吉は内心思案しながら、日吉は電車に乗り、目的地の遊園地まで名無と共に向かう。休日の車内はそれとなく込んでおり、日吉は人からさりげなく庇うように入り口付近に名無と並び立つ。

「そうか、遊園地初めてなのか。」
「はい。もしかしたら、幼いころに行ったことがあるかもしれませんが、記憶の中にはありませんね。」
「だから、楽しみだったんです。」と照れたように笑った。電車に乗ったあたりからそわそわと落ち着かないと思っていたが、どうやら名無は人生初の遊園地であるようだ。彼女の育った環境を思えば仕方ないと思うが、こうして楽しみにしてくれたの出れば僥倖である。尤今日行く予定の遊園地は隣県にある某有名遊園地ではなく、都内郊外にある、民営の遊園地だ。前述した遊園地に比べれば小規模であるが、それなりにアトラクションなどは充実しているし、週末にはショーや花火などもある隠れたスポットである(忍足調べ)。
因みに某遊園地に関してはあの御曹司な元部長が貸し切ろうとしたり、丸メガネが「初心者デートにはハードルが高すぎる!!」という理由から却下されていた。まあ、いずれいせよ、
(あの隣の車両にいる馬鹿二人を巻かなきゃな・・・)と日吉は内心でため息をついた。

           
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