庭球 長編

□参
2ページ/43ページ

夏の暑さというのはもはや凶器だと日吉は常々思う。


期末テストが終了し、夏休みを目前に控え、短縮授業となっている平日の午後。日吉はテニスコート近くを走っていた。どのようなスポーツでもウインタースポーツを除き大きな大会は春から秋にかけて行われる。しかしながら、この季節に行われるスポーツは技術だけではなく体力も必要だ。日々強くなる日差しに容赦なく体力は奪われるし、暑さに対しても耐性は必要である。特に日吉は中等部時代から体力に対して課題があった。高校生になってから徐々に体は作られているが、先輩たちは常に自分よりも先行している。彼らに追いつくにはこのような基礎的な部分をコツコツとこなさなければならない。それは才能が有る無いにかかわらず同じことだということを日吉は学んでいた。


「部活が始まる前から、飛ばしているな。日吉。」
自身が課しているノルマを走り終え、タオルで汗をぬぐっていると、テニスウエアに着替えた跡部に声をかけられた。跡部の隣には樺地が控えており、樺地は無言で取り出した未開封のスポーツドリンクを日吉に手渡す。長年跡部の側に居続け世話を焼いているからか、樺地は基本的に気が利く人間である。日吉は礼を言いながらペットボトルを受け取ると、一口飲んで喉を潤す。ぺっどボトルは程よく冷えており、こういう細やかな部分まで配慮できるのは樺地ぐらいしかいないような気がする。
「そういう跡部さんはいつもより遅かったですね。生徒会がらみですか?」
日吉の問いに跡部は「まあな。」と端的に返した。しかし、その様子はいつもと若干異なる気がする。そんな跡部の様子にいぶかしげな視線を送るが、跡部は答えず、肩を竦めるだけであった。
そして踵を返し、「あんまり飛ばしすぎて部活でばてるなよ。」というと、テニスコートに向かっていった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ