夢の欠片

□何かの始まり
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そう言うと船の床をブーツの踵で打ち鳴らした。
数秒待ち、少し歩いてから再び踵を打ち鳴らした。
そして数秒待ち、少し歩き、そして踵を打つ。
すると何回かその行為を続けた時、明らかに他の場所とは異なる音を耳にした。
「ここか……。」
拳銃を構えながら、セグは一度船から降りた。
そして、その異なった音がした理由を理解した。


そこには酒樽が置いてあった。
その後ろには微かに開いた大きな扉があった。
近くに寄り、匂いを嗅いでみると独特の強い匂いが鼻にきて、思わず眉を僅かに寄せた。

「成程、確かにあの部分だけ音が違ったわけだ。」
「どういうこと、セグ?」
「ティルス、いたんだ。」
「酷いなぁ、さっきからずっといたよ。
んで、何で違ったのさ?」
「一箇所だけ違う音がした所があっただろ?
あの場所は、ちょうど酒蔵の部分だったんだ。
下に巨大な空洞があると、そこだけ他の音とは異なっているんだよ。」
「成程ね。
そんでどうすんの?
こんな誰もいない船なんか調べて。
まさかセグ…この船を盗んで、『この船は俺がもらったぜ、ひゃっはぁ!』なんて言う気じゃないだろうねぇ!?」
「言わないよ、セグ。
そもそもそんな幼稚な趣味はボクにはないよ。」
「なら良かった。
そうなったらどうしようかとヒヤヒヤしたよ。」
「そうだなぁ…、もしもそうなったら……。」
「そうなったら?」
「ティルスをストラップに変えてこの船から投げて海底へ沈ませる。」
「えぇえっ!?
そ、それは無いよセグ!!」
「あははっ。」


必死に言うティルスの声を聞いて、セグは笑った。


「…で、調べて気が済んだ?
これからどうすんの?」
先程の件が未だ根に持っているのか、ティルスは少し拗ねたような口調で言った。
「さっきまでボク達は森の中にいたんだ。
どうせここは夢なんだから、また寝て起きればさっきの森の中の筈だ。
もう少し眠るとするよ。」
「確証は?」
「ない。
でもやってみないと分かんないから、さ。
じゃ、おやすみ。」


そう言うと船の端に置いてある木箱の上に座り、もう一つ上にある木箱に首をのせるようにして瞳を閉じた。


「よく寝れるよねぇ。
………それにしても…、ここって本当に夢の中なのかなぁ?」


そう呟いたティルスの声は誰にも聞かれることはなかった。


「はぁ、退屈だなぁ。」


またしても一人―いや、1台現実に取り残されたティルスなのであった。
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