短編集

□ハチミツな関係
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「姉さんの指…甘い」

ちゅっ、と生々しいリップ音をたてながら双子の弟は私の指を口に含んだ。
爪と肉の間の敏感なところを舌先が滑り、体を震わせた。

「…ふっ…ぅ」
「声。殺さなくて良いよ。今は僕しかいないんだから」
「でも、ここは教室だよ…?」
「だから何?」
「んっ」

当然のことの様に首を傾げたレンは指を解放してくれた。
けど、今度は私の唇を捕らえた。
まるで野生動物みたいに乱暴に私の唇を奪ったのに、口内で動く舌は凄く優しい。
意識してない吐息がかき乱される唾液音と共に外に出ていく。
(どうしよう。この音、レンに聞こえてるのかな?…恥ずかしいよ)

「…っ、ぷはっ」
「姉さんは何度キスしても慣れないよね」

レンは急に優しい笑顔を見せた。
今までも笑顔だったが、それは何か違う柔らかくて落ち着きのある笑顔だった。
レンはゆっくりと髪の毛をすくように私の頭を撫でていく。

「レンが慣れすぎなの」

私と同じ血の通った人間のはずなのに弟のレンは、幼いころからモテていた。
多分こんなにキスが上手いのもレンのことを好きな誰かに教えてもらったのだと思う。
(レンが他の女の子とキスしているなんて…考えたくもない)

「嫉妬?」
「…違う」
「姉さんはやっぱり嘘がつけないね」

レンはぷにーっと、頬を掴んだ。
そして額を擦り寄せる。
(ううっ、レンの顔が近い…心臓がドクドク速くなってるの、バレてないかな?)
目を力強く閉じて出来るだけ冷静に、心臓の高鳴りを抑えようとしてみる。
けれども、上手くいかなくて顔に熱がたまった。

「姉さんの顔熱い」
「うるひゃい」
「僕はね、姉さんのそういう所全部好きだよ」
「……ひょう」

(そんな、甘いことをこの距離で言われたらもっともっとドキドキするに決まってるのに!)
けど、心の叫びはレンに聞こえないで更に私の額は熱くなる。

「今まで付き合ってきた女の子なんかとは比べられない位好き。誰よりも好き。世界で一番愛してる」
「や、やりゃー」
「嫌なの?どうして?」

落ち込んだ低いレンの声が耳元で聞こえた。
(本当に傷ついたの?)
レンのことが心配になって目を開けるとレンと目があった。
潤んだ大きな瞳。今にも泣きそうで、どれだけショックを受けたのか分かってしまう。

「ひ、ひがうの。恥ずかしくて…やりゃないよ」

頬を引っ張られたままで必死にレンの機嫌を直そうと言葉を並べる。
すると、レンの涙は引っ込んで代わりに柔らかい笑顔が帰ってきた。
頬から手を話して、今度は私の腰に手を回して抱きついた。

「本当?照れてただけなの?」
「う、うん…そうだけど。そうだけどー…そんなにくっつかれると恥ずかしいよ」
「姉さんは恥ずかしがり屋だね。好きだよ」
「…文脈があってなーい」

ぽかぽかとレンの頭を叩くとレンは太股に唇を押しつけた。

「ひゃあっ!?」
「…甘い。姉さんは指も唇も太股も全部甘いね。ハチミツで作られてるの?」
「それを言うなら…」

私にいつも甘い言葉を囁いて。
私をいつも甘やかしてどろどろにする。

「レンの方がハチミツだよ」




end


2014.4.29

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