短編集

□好きだよ
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注意
カイメイ




今日のカイトの様子はいつもと違った。何か変な行動をしているのだ。
いや、カイトが変なことをするのはいつもの事なんだけどいつもよりもソワソワしている…というか。
つまりはいつもと違う、のだ。
母親の勘だけどね。

「今日、何かあるの?」
せかせかと歩き回るカイトの後ろ姿を見ながら言うと、カイトはびくぅっ!と飛び跳ねた。
うん、どう考えてもおかしいよね。
「な、な、な、にもないヨぉ?」
後ろ姿しか見ていないけど、カイトが慌てているのがよく分かった。
私に知られるとヤバイことを隠しているのね?
そこまで変な行動をされると更に気になってしまうわよ。
「絶対何かあるでしょ。言いなさい」
「だめだよ…」
「何でよ」
「まだ、言う時じゃないから、ね?」
「ね?じゃないわよ。言ってる最中に逃げようとしないの」
カイトの長く伸びるマフラーの端を掴むとカイトの動きは止まった。
それどころか強く引きすぎたせいで、カイトの状態は後ろへ私の方へ倒れてしまった。

「ぃだっ!」
「…痛いのはこっちの方よ」
私は後ろに倒れたカイトを支えた為に、お尻から地面に落ちていた。
だからお尻が痛む。
「ご、ごめん。めーちゃ」
「だーめ」
慌てて避けようとするカイトの首に腕を回して動きを止めた。
カイトの頭が私の胸の上に、鼻と鼻とがすれあう位の位置に互いの顔はあった。
「だって、痛いんでしょ。だったら早く退けないと。それに、俺、重いし」
一言一言話す度にカイトの顔は赤くなっていく。
隠そうと動かした手は更に顔を近づけることによって止めさせた。
「重くないから、早く秘密にしてたことを話して」
囁くように言うとカイトは頬を紅潮させたまま、ゆっくりと言った。

「めーちゃん、好きだよ」

は?
ちょ、まてまてまて。待て?
そんな赤い顔で言う好きってどういう意味よ。
絶対にそれは家族としての好きじゃなくて、女としての好きって意味じゃない。
わ、私はあんたのことそんな風に思ったことないわよ。
女としての好きってことは恋人にならなくちゃいけないじゃない。無理よ。

「で、でも、別にあんたが私のことを本気で好きだって、言うなら考えてもあげないこともないけどね!」

ど、どうしよう。顔が熱い。
カイトの顔はすぐ目の前にあるし、私の
顔が見えてしまう。赤いのがバレる。

「めーちゃん?」

カイトが私の頬に手を伸ばした。
触るな、と言うはずだった口が震えて言えない。
このままだったらバカイトにキスされちゃうかもしれない。
そう思った時だった。

「ごめーん、皆!やっぱりバレちゃったぁ!」

カイトは大きな声で叫んだのだ。
「へ?」
カイトを包んでいた腕を緩めてポカーンと口を開けていると、ミクとリンとレンが走ってやってきた。

「カイト兄さんのばかー!だから二人っきりになるなって言ったでしょ?」とミク。
「そうだよ。兄さんはめーちゃんに弱いんだから。あーあ、兄さんにこのことを言うんじゃなかった」とリン。
「って、そりゃ無理でしょ。この会を企画したのは兄さんなんだから」とレン。
「あ、そっか」
皆がそれぞれ話しているけど私には意味が分からない。
「会?バレた?どういうこと?」
「あれ?兄さん、バレたんじゃなかったの?」
私がカイトに聞くとリンが首を傾げた。

「あらー、バレてなかったみたいだね。じゃあ、今やっちゃおうか」
とカイトが言うと同時に座り込んでいた私を抱き上げて立たせた。
そして、私の手を取ったと思ったら私の前にかしづいて言った。

「いつもありがとう。めーちゃん、大好きだよ。これは、俺等からの感謝の気持ち」

皆が後ろで拍手をして、カイトが私の前で微笑んでいる。
まだ、何が起こっているのか理解できてないけど皆が私に感謝しているってことが分かったから私は笑った。
「こっちこそ、ありがとう」
ぱぁーんっとクラッカーの弾ける音がした。



その後、用意されていたケーキやパーティー用のご飯が食卓に並べられた。
が、私はまだ今日は何の日か思い出せてなかった。
「ねえ、カイト今日って何の日?」
「めーちゃん、覚えてないの?今日は敬老の日だよ?」
…は?
「いつも感謝していることを伝える良い日だよね。めーちゃ…あ、今度からはばーちゃんの方が良いかな?敬老の日だからね!」
何故か腹立つ笑顔で私を見てくるカイト。
おい待てコラ。
誰がばーちゃんだ。その前に私は敬老を迎えるような歳ではない。
「かぁーいと?」
出来る限りの優しい、柔らかい声で呼ぶと油断していたカイトは笑顔で振り返った。
その瞬間。
ぱぁーんっとカイトの頬が叩かれる音がした。


じんじんと痛む手を押さえながら思う。
カイトに好きと言われて一瞬でも嬉しいと思ってしまった自分を消したい。
あいつはこういう奴なんだ。
本当に、期待してしまった私って、バカ。
まだ鼻先にカイトの顔が浮かんできて、思わず頬を赤くさせてしまった。



あとがき
ツンデレめーちゃんに鈍感すぎるバカイトでした。

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