短編集

□魚じゃなくて人魚ですから
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注意
人魚姫パロ
オチ迷子
リン視点
リンレンになる予定だった






「あの人に会いたいな」

リンはぽつりと呟いた。
いや、呟いたというより無意識に口から漏れ出ていたという方が正しいだろう。

「あの人って誰?」
「め、めーちゃん!私何か言ってた?」
「うん。あの人に会いたいなって」
「き、き、気のせいダヨ!」
「そうかなー?」
「そうダヨ!」
「リンが片言のような気がするけど気のせいなことにしとこう。何かあったら私に言うのよ」

そう言って大きな胸を力強く叩いためーちゃんの言葉は、リンの胸に深く響いた。
私と会いたいあの人とはそう簡単には会えない関係なのだから。

─私は、人魚だから。

あの人に出会ったのは一週間前、嵐の夜。波に飲まれて沈没した船に乗っていた少年。
黄金のオーラを持った彼にすぐに私は心を奪われ、荒れ狂う海の中彼を助けて岸まで連れていった。
ただ、それだけのことだけで彼の記憶には何一つ私のことはないと思う。
でも会いたい。身体が心が彼を求めている。

私は彼とは違う…彼は人間、私は人魚だから人間になりたい。彼と同じ、人間に。
そうしたら私のことを知らなくても、私のことを好きになってくれるかもしれない。

それから私は人間になる方法を探した。そして海底の奥で人間に変えてくれる魔女がいると云う噂まで辿り着いた。

その噂を信じて奥深くまで行くと、ワカメや昆布…海草で包まれた小さな洞窟があった。
禍々しい雰囲気が魔女がそこにいると教えてくれ、恐怖で尾びれがすくみながらも泳いだ。
中にいたのは、緑色の少女。
長い髪の毛を頭の高い所に2つで結っている。

ドキドキする胸を押さえ言った。
「魔女さん…私を人間にしてくださいっ」
「いいよー」
「え!そんなに簡単に了承して良いのですか!?」
「うん、リンちゃんだもん」
「代わりにあんたの声を貰うよ、とか言わないんですか?」
「勿論!」
「ここでグーサインは間違ってますから!このままでは内容変わりますよね!?」
「内容?別にリンちゃんの望み通りになれば私は本望。でも、バナナとくっつけたくはないなー」
「ば、バナナ…?」
「んー。じゃあ、その長くて美しい黄金の髪を貰う代わりに貴女を人間にしてあげる」
「それで良いです。お願いします」

そんなこんなで私は人間になるために彼女に髪の毛をあげて、ショートカットになった。

幼い頃から伸ばしていた髪を短くするのには抵抗があったけど、彼と同じ人間になれるということから嬉しさが溢れていた。
「やっと人間になれる」
彼と同じ人間に…

「はい。これを飲んだら人間になるから。でもね、もう二度と人魚に戻らないからそこに注意して」
「はい。分かりました」
「じゃあ、頑張って…」
悲しそうな眼差しで魔女は私を見送った。それは何故だったのだろう。


岸まで泳いだところで息を飲んだ。彼が海辺に歩いていたから。
何か一人言を言っているみたいだけどよく聞こえない。
聞こえるようにもっと近くに寄った。

「いやぁ。あの嵐の夜に僕を助けてくれたのは誰だったんだろう。僕に付いていたこの鱗からしてもきっと魚だったんだろうが。メスだと良いな。欲を言えば人魚で。超可愛い女子人魚で僕の言うことを何でも聞く子で。あ、神様。僕を助けてくれた人魚が僕に恋して会いに来てくれるとか、甘い展開期待しています」

パンパンと空に向かって柏手を打つ彼。
そんな彼を見て私は一つ思うことがあった。

「そんな甘い展開ねーよ」

彼女は魔女の薬を飲むことなく、幸せに暮らしたそうな。







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