短編集

□意外と気にしてた
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「ねえ、ちょっと引っ張って」

突然、レンがこう言った。

「え、何で?てか、何処を?」
「腕を引っ張って」
「な、何で?」
「良いから、早く」
「う、うん…良いけど…」

ぎゅうっと私の方に引き寄せた。
するとレンが引かれて私の胸の中に収まった。
あら、小さくて可愛い。

「こう言うことじゃない」

レンは私の胸に収まりながらも、むっと怒った口調で言った。

「どう言うこと?」
「上に引いて」
「何で?」
「理由は良いから」
「…うん、分かったよ」

またレンの腕を引っ張った。
今度はさっきと違って上の方向に。
背伸びをして最大限まで伸ばしてやると、レンは真っ赤な顔をしていた。

「苦しいの?止めようか?」
「…苦しくないっ」
「苦しそうだけど」
「気のせいっ!」

荒く呼吸をするレンを見て、再度思う。
やっぱりレンは無理をしている。
だけど、何故こんなことを頼むのか。
もしかして…と、頭に浮かんだ事が本当なのかな?

「…レン」
「ん?」
「もしかして、今日の身体測定で私よりも1ミリ小さかったこと根に持ってるの?」
「…ち、ちが…」

目を丸くして、レンは弁解している。

「私を見返したくて、伸びようとしてるとか?」
「…違う」
「だとしても、伸ばしたからって身長は大きくはならないんだよ」
「なっ!?」
「そんなに反応するってことは図星なんだ。やっぱり、大きくなりたかったの?」
「大きくなりたかったけど、…理由は違う」
「じゃあ、理由は何なの?」

諦めたのか、決意を固めたのかは分からないけど、レンは大きく息を吐いて私を見た。

「わ、笑わないか?」
「笑わないよ」
「絶対か?」
「絶対だよ」
「なら、耳貸せ」
「はいはい」

少し屈むとレンは嫌な顔をしたが気にしないフリで、耳を近づける。


「……ってことだよ」


レンが私にだけ聞こえるような小さな声で囁いた。
しかし、私には誰の声よりも大きく聞こえて体に響いた。
徐々に顔だけじゃなくて、体全体が熱くなる。

「ほ、本当…?」
「嘘、言うわけ、ないだろ」
「そ、そんなー…」


蒸気した頬を押さえながらレンの言った言葉を頭の中で思い出した。








─お前より、大きくなったらキスしやすくなる…ってことだよ。





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