短編集

□憑かれてる
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俺には双子の姉がいる。
ワガママで鈍感な姉ちゃん。
今日の朝も喧嘩してしまった。

「何で私のみかん食べたのよ!」
「え、姉ちゃんのみかんは昨日自分で食べてただろうが」
「そうよ!で、あんたの分のみかんがないの!」
「そりゃ、俺のだからね。食べたよ」
「あんたのモノは私のモノだもの!勝手に食べたらダメでしょ!」
「…はい?」
「だからー、あんたのみかんは私のみかんなの!」
「ジャイア○か!!」

ってな訳で喧嘩をした。
明らかに姉ちゃんが悪い。
まあ、こんな喧嘩はしょっちゅうで帰りには仲直りするのだが今日は違った。







姉ちゃんが死んだ。








リンの葬式にいた。
リンが死んだとも頭は理解できていない。
朝はあんなにも笑顔だったのに。
死ぬなんて思えなかった。

「道路に出てった猫を守ってトラックに引かれたんだって」

無感情に言うめーちゃんは朝見た時とは違ってやつれていた。
いつもの覇気がない。
それもそうだけど。

「め、めーちゃん。この亡くなり方もリンらしいよ…」
「カイトに何が分かるのよ!」

いきなり殊勝にしていたメイコが、兄さんに掴みかかった。

「ま、まあ…落ち着いて…兄さんも慰めようとしただけだから」
「誰かを殴るか呑まないと気がすまないのよ!」
「じゃ、葬式終わったら呑もう…ね?」
「呑むけど1発殴らせて」
「あ、いいよ」
「よっしゃ!」
「えー!酷いよ、レン…裏切ったな!」

兄さんがメイコに殴られるのはいつもの事だから見逃しておこう。

無事(?)に式も終わり、どんちゃん騒ぎになっていた。
勿論、真ん中で誰よりも呑んでるのはメイコ。
そんな中から一人抜け出し、外に出た。

冷たい空気に包まれ、夜空を眺める。
隣にいつもいたアイツがいないから寒い。
それに静かだ。
姉ちゃんがいればいつも煩いくらいだったのに…

「何でいなくなったんだよ…リンのバカ…」

ぽつり、頬から涙が溢れた。
それが栓を切ったように止まること亡く流れて落ちる。
こんな時は姉ちゃんだったら

『なぁに泣いてんのよ!』

と馬鹿笑いして俺の頭を叩くんだろうな…あれ?今俺が思った言葉って口に出したっけ?
…出してないってことは…
上を見るとふわふわと浮く姉ちゃんがいた。
自身の手を眺めている。

『あれ、触れない…?』

俺の予想通り頭を叩いたのか。
身体全体どころか眺めているその手すら、薄く透けている。

「レン君、外で涼んでいるの?」
「ああ、ちょっと疲れて」
「突然だったもんね…落ち着いたら戻ってきて」
「うん」

丁度葬式に来たクラスメートの一人の女子が俺に聞いて、去っていった。
そこでふと疑問が。
俺の目の前に浮かぶリンが見えてない?
もしかして見えてるのは俺だけ…?

『レンー。私何か浮いてるよね?しかも、レンに触れないよ。どうしたんだろう?』


それでやっと理解した。
リンは俺にだけ見える幽霊になった。
(死んだことに気がついてない)


『あれ?どうして、私ここにいるんだろ』
「何も覚えてないの?」
『うん。誰かに呼ばれて…呼ばれたのかな?誰かにバカって言われた気がして…そしたらここに』
「バカって…?あー、ははは…」
『どうしたの?』

さっき、リンのバカ…って言ったような気がする。
ってことは俺が死の国に行こうとしていたリンを呼び寄せたのか!?

「どうすれば帰れるか分かるか?」
『どうすればって…歩いて家に帰れば良いだけの話でしょ?違うの?』
「あー。そういえば死んだこと覚えてないんだもんな」
『死んだ?誰がなの?』
「ごめん。忘れていいよ」
『じゃ、帰ろ』
「あ、その前に…」
『ん?』
「朝はごめん」
『何かあったっけ?』
「覚えてないならいいよ」

ずっと心に残っていた想いを吐き出して多少すっきりした。
大きな問題(リンがこの世にいること)があるのはまだ変わらないがこれでも良いか。

「じゃあ、帰ろうか」
『うん!』

そう言ってリンは飛んだ。




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