短編集

□ヤミカノジョ
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「勿論」

貴方の返事はいつもこれ。
私のこと好き? と聞いた時の返事。

適当なんでしょう?
私が嫌いなんでしょう?
想ってるのは私だけでしょう?
ねぇ、そうでしょ。

もっと私のことを見てよ。
私でいっぱいになってよ。
私を貴方でいっぱいにしてよ。
貴方がいるのに私は満たされない。
私が隣にいるのに貴方は私を見てないからかな。
ねぇ、誰を見ているの?

毎日、毎分、毎秒。
私を考えて。
私を視界にいれて。
私だけの為に生きて。
私だけの為に死んで。

ねぇ、ねぇ、ねぇ?
私を好きなら出来るでしょう?

貴方の青い目も。
貴方の薄い唇も。
貴方の白い肌も。
貴方の金の髪も。
全て、私のものなんだから。
死ぬことくらい出来るよね。

付き合っているんだから、当たり前だよ。

いつからか彼は私を見なくなった。
必死で目を合わせても見ているのは、私の中の私。
口付けもなくなった。
私から唇を合わせても、絡み合うのは私の舌と彼の拒絶。
肌を重ね合うのもなくなった。
だからかな?
貴方のが私のナカにないから満たされないのかな?

そっか。
入れれば満たされるのね。

無気力な彼を家に呼び出し、ナイフを見せた。
すると、彼は動じる素振りも見せず頷いた。
全てを悟ったように。
呆気なくナイフは彼の胸へと突き刺さる。

「愛しているよ」

久し振りに聞いた、彼の本当の言葉。
暖かい言葉は私の胸まで熱くした。
ホロホロと流れ落ちるのは涙。

「ごめんねぇ…」

瀕死の彼の頬に手を当てる。
ただ、満たされたかっただけなの。
見てほしかっただけなの。
貴方にいなくなってほしいなんて思ったことないの。

身勝手ながらまた、呟いた。

「私も愛してるよ」

ナイフを自分の胸に納めた。






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