短編集
□片想い
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美しい。
初めて会った時の感想だ。
そう、あの時は酷い雨だった。
そんな中傘も差さずにあるいていたのが、彼女。
名前も知らない彼女だが、濡れても迸る色気に目が眩んだ。
「傘に入りませんか?」
勇気を出して言った。
しかしその言葉は脆く壊れる。
「いらない」
知らない彼女なのに拒絶の言葉は胸に深く響いた。
酷く寂しそうな暗い目が僅かに揺らぐ。
「そう、ですか。すいません…」
まあ、知らない男に傘に入らないかと言われても普通断るよな。
と、自分を慰める。
そのまま彼女は去っていった。
──翌日
また彼女にあった。
今日は雨が降ってないから濡れていない。
だから昨日とは違った色気を放っている。
話しかけたい衝動にかられ近づくが昨日の様に睨まれたら…という恐怖から、近づくことはできない。
その結果、軽くストーキングしている様な立ち位置にいた。
端から見たら警察呼ばれるレベル。
「何なの?」
案の定、彼女は振り向いた。
金色の髪の毛の間から嫌悪に満ちた表情が伺える。
彼女に見られるのは嬉しいがこんな形で見られるのは全く嬉しくない。
「き、昨日はすいませんでしたっ」
突然口からでたのは謝罪の言葉。
彼女は驚いているが、同じく僕も驚いている。
「突然知らない男に話しかけられたら怖いですよね…ただ濡れているのが寒そうに見えたので言っただけなんですけども。怖い思いさせてすいませんでしたっ」
べらべらと口から言葉が流れ出た。
結果、得られたものは彼女の笑顔。
「ぶっふふふふふ…面白いわね」
ぱあっと視界が明るくなる。
彼女が僕を見て微笑んだ。
心臓が今にも踊り出しそうだ。
「また今度、傘を忘れたら入れてね?」
「はいっ!」
返事をして、敬礼。
また彼女は笑顔になった。
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