短編集
□夏
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「あつぅーい!」
白魚の様な生足をパタパタと上下させながら、リンが叫ぶ。
タンクトップだが腰は露にして、下は下着のみという格好なのに暑いと言う。
確かに、僕も暑いよ。
「そりゃそうだよ。今日は30度だもの」
「にゅやー。溶けるよぉ……」
暑さのあまりリンはもはや液状化しそうになっていた。メルトダウンか?危ない危ない。
僕の方が暑いと思うんだけどな、なんて言わないけどさぁ。
だって、リンは扇風機の前に寝そべっていながらも扇風機の当たらない場所にいる僕から団扇の風を受けているのだ。
こんなにしてるんだから、暑くないと一言でも言ってよ。
勿論、僕の額からは玉の様な汗が止まらない。
「もっと、強く扇ぎたまえぇー」
「はい、はい」
そうやって足を無駄に動かすから暑くなるんだよ。
もう少しじっとしてれば良いのに。
「っひゃあんっ……!?」
突然リンがエロい声をあげた。
やめてやめて、ここ成人指定じゃないんだから。つーか、何?僕へのご褒美?
……ってことはなく、きっと睨まれた。
「背中にレンの汗が落ちたぁ」
「ごめん、暑くて……」
生理現象なんだから許してよ。こんなにも尽くしてるんだから。
「舐めて」
「へ?」
「舐めて取りなさいって言ってるの」
そんなのも分からないの?と言いたげな瞳。いや、分からないよ。
つーかその命令、僕にとってはご褒美にしか感じれないけど、良いのかな?
ハアハア、でへでへ。危ない自重。
「ぺろっ」
「ん……ひゃぁっ!や、優しく舐めなさいよ!」
エロい声出しやがって。
僕を誰だと思ってるんだか……あ、弟か。
「やぁひふふぁへへふひょ?(優しく舐めてるよ?)」
優しいの加減が分からないけど、僕なりの舐め方で、舌を広げて汗を拭いとる。
ううん……当たり前の如くしょっぱい。
しかも僕の汗なんだよね、これ。
でも、リンの汗と融合して濃厚かつ味わい深い舌触りへと進化していてこれもう、何も言えねぇ。
「っもう!仕返し!」
怒鳴ったと思えば、起き上がり僕の前に座りこんだ。
そして僕の顔に、彼女の顔を近づけ……
「ん、ん!?」
舐められた。
ちろちろと舌先が僕の頬を這う。
生暖かい、不思議な感情が全身を支配し鳥肌が立った。でも、気持ち悪いよりも気持ちいいが強い。
暫く僕の汗を舐めとった後、リンは顔を離した。
「しょっぱーい」
僕の顔を見てから唇を尖らせた。
拗ねてる様な、いじけてる様な表情にゾクッとする。
「全然反応ないのぉ。つまんない」
僕に興味をなくしてまた扇風機の前に俯せになった。
そのことに感謝した。
今の僕を見られたくなかったから。
暑さからではない頬の赤さの原因を悟られたくなかったから。
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