高尾作品創作

□運命の相手は
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小さい頃、誰だって考えた事があると思う。
『私の運命の相手は誰なんだろう?』
そんな風に、乙女のように。
白馬に乗った王子が私のことを迎えに来てくれると思ってた。

けど大きくなった今なら分かる。

王子は私を迎えになんてこないし、ましてや、運命の相手でもない。
私の運命の相手はそんな妄想のような遠い人ではなくって、もっと近い人。
今では近すぎることが悩みの種だけど。

そう、私の運命の相手は実の弟、健三である。





「晴美、愛してるよ」
「私も…愛してる」

この台詞だけ聞けば皆が私たちのことを姉弟だなんて思いはしないだろう。
こんな風に愛の言葉を囁かないと、互いの想いがなくなってしまいそうで怖いから、私たちはバカみたいに毎日、毎日愛を伝える。
だけど勿論親の前ではこんな風に愛し合っている様子は見せない。
心の中では、姉弟で愛し合うことが許されないってことを自覚しているから。
多分、そのこともあって私たちは毎日愛を伝えるんだと思う。

こんなにも好きになれたのは健三が初めてで、きっと最後。
だって健三は私の運命の相手なんだもの。
一番に私を考えてくれて、何よりも私を大切にしてくれて、私の欠けた一部分。
そんな彼が運命の相手じゃないはずがない。

そんな風に、弱い私は自分に言い聞かせる。
健三が私のことをベタベタに甘やかしてくれるから、私は健三がいなくちゃいけない子になっちゃった。
凄く、弱い存在。
でも、良いの。
健三は私のことを見捨てないでくれるからどれだけ弱い子になっても良いの。




「ねえ。知ってた?」

姫が教卓の上で足組ながら、私に言う。
「姫、教卓の上に座って良いと思っているのですか?」
「私はそんなこと気にしないの。それよりも、ねぇ。楽しいことがあるの」
「何ですか」
「もっと楽しい顔しなさいよ…まあ、良いわ」
姫はぶうっとむくれてから、長い髪の毛を弄った。
日の光に照らされて綺麗に輝く髪の毛が素直に羨ましい。
私のくりくりの髪の毛もあんなに綺麗だったら…と、私も髪の毛を触れると姫は口を開いた。




「健三が告白していたわ」




がつんと頭を殴られた様な衝撃が走る。
姫は私と健三の関係を知らないから笑わなくちゃいけないのに、口角はピクピクと痙攣して上がらない。
ダメよ。バレる。不審に思われる。
だから、笑わないと。

「へえ。…そっかぁ」
「ん?何その返事。もっと驚くと思っていたわ」
きっと姫は弟が告白した事実に驚くと思っていたんだろう。
けど、私の大好きな人が他に好きな人がいるっていう事実に驚いていた。
「まあ。驚いてますが、健三も人なんで告白することはあると思ってました」
「あけにあっさりで、なんだかつまらないわ。じゃあ、もっと驚くこと教えてあげる。告白した相手はね」
興味はない。そんなフリはしながら耳に全部の神経を集中させた。

「この学年の人じゃないわ」

嘘。この学年じゃないの。
でも、せめてクラスやどんな人かは知りたかった。…けど、聞けない。
「まあ、この学年の人すらも覚えてない姫が他学年だって分かったことで奇跡ですよね」
「何よ。名前も知りたかったって言うの?ワガママね」
「違いますよ。ありがとうございます」
「むむっ。やけに素直で気持ち悪いわ」
「姫も、変わらず素直で可愛いです」
姫は一瞬目を丸くしてから教壇から降りて不思議そうな顔をした。
そして小さく呟いた後、奥くんを探して教室を出ていった。

「今日の晴美は本当に変」

聞こえたが、返事はしなかった。
だって変になっている理由は分かっていたから。
健三が私以外を好きになって、告白した。その問題がぐるぐる頭の中で回る。
私に愛してるって言ったのは嘘だったの?
今までの愛の言葉も嘘?
今更離されたら私は壊れちゃうのに。
それとも、壊れちゃうような私が嫌になって他の子を好きになったの?
そんな黒いどろどろの感情が肺に溢れて息をするのさえも苦しい。
健三。健三。私には健三だけなのに。

ドウシテナノ?



「あ、晴美」

頭の中で何度も呼んでいたせいで、声が聞こえてしまった…かと思ったが本当に健三が後ろにいた。
会いたいとは思っていたけど、気持ちの整理が出来ていない今会うと、変なことを言ってしまいそう。

「健三。どうしたの?」
「晴美こそ。もう教室には誰もいないけど…何か用でもあるの?」
「何もないよ」
「そう。俺はもう帰るけど、晴美な良かったら一緒に帰らない?」
「何で?」
ダメ。黒い感情が出てくる。
「えっ。何でって、同じ家だし。晴美と一緒に帰りたいし…」
「その言葉は彼女に言って」
違う。こんなこと思ってない。
「え。彼女って?」
「私、知ってるんだから。健三が先輩に告白されたの。だから、その彼女と一緒に帰りなよ!」
嘘!一緒に帰らないで!
「晴美は、本気でそれ思ってるの…?」
健三が寂しそうな目で笑った。
何でそんな顔をするのよ。罪悪感でズキンと胸が痛んでしまう。
私は悪いことしてないのに。あんなに好きと言ったのに裏切った健三が悪いのに。
…だから、そんな顔しないで。

「そっ…か」

健三は言い残して教室を出てった。
廊下で健三の足音だけが響いているせいで段々と足音が小さく、遠くなっているのも分かってしまう。
知りたくないのに、知ったらこの胸の動悸が激しくなって余計辛くなるだけなのに。
頭の中は健三のことばかりで、嘘を言わなければ良かったと今更ながら後悔する。
意味ないのに。
健三は私じゃない他の女の子を好きになったってことは、私は必要ないの。今更出てって健三にすがっても遅いの。
なのに、最後に見せた哀しい表情。
私のこと、嫌いなんでしょ?どうとも思ってないんでしょ?なのに、なのに。あの時、あんな泣きそうな顔を見せたのは何で?
傷ついた様な顔を見せたのは何で?
何で、何で、何で?考えれば考える程沢山の何でが溢れて息をするのさえも苦しい。分からない。何で。知りたい。触れたい。お願い。なら、行動。嫌、脊髄反射の行動なんて私らしくない。もっと慎重に。でも、今このまま帰らしたら。全てが終わりそう。嫌。絶対、嫌。終わりたくない。ねえ、健三。健三。健三!

ぱあっと、頭の中で想いは弾けて私の足を動かした。健三の元へ私を連れていく。速く、速く。

「健三!!」
晴美…と小さく呟いて、健三は振り返った。悲しそうな表情を浮かべたまま。

「私は健三が好きなの!健三に好きな人がいようと嫌いであろうと、そんなこと知らない!私は世界で一番健三のことを愛しているって、分かって欲しいの!」
走ってきたこともあって、ゼェゼェと荒い息を挟みながら大声で出した告白。もしも聞こえなかった、なんて言われないように。
健三は再び私の名前を呼んだ。今度は嬉しそうな顔で。そして健三は私の元へと駆け寄り抱き締めた。
汗の匂いがバレると思ったが、そんなのどうでも良くなる位に健三が抱き締めてくれたことが嬉しかった。
「晴美らしくない。人前で好きだって言ってくれるなんて…いや、滅多に好きだって言わないのに」
「私もらしくないの知ってる。ただ、必死で」
健三の胸に手を伸ばして触れた。暖かくてどくどくと脈打っているのが分かる。それも、私のよりも大きな音で。
「ん。俺、凄い幸せだ」
ちゅっ…と唇が触れる。
「な、何してるのよ…彼女がいるんでしょ?」
「さっき知らないって叫んだのは誰の口だよ。それに、俺の彼女は晴美だと思ってたんだけど?」
「え、でも、あんた。年上の子に告白したって…」
「それさ。見間違いじゃないの?告白した記憶も、された記憶もそれどころか年上の女子と話した記憶すら…あ、あった」
ふと、健三は顔を上げた。
何でそんな大事なことを忘れるのよ。嬉しいけど、何か、嫌だし複雑な気持ち。
むっと唇を尖らせながら返す。
「ほら、あるんじゃない」
「ただ落とした教科書を拾ってもらったっていうだけなんだけど…それを含めるならあるってことになるかな」

「つまり。それは、私の…じゃない。姫の早とちりだったってこと?」

恐る恐る聞くと、「そういうことになるね。俺は告白はしてないし」という返事が返ってきて羞恥に悶絶する。
いや、姫の言葉を疑わずに信じた私が悪かったんだけど。まさかそんなことあるとは思ってなかったし…
「まっさか、俺を信じてくれてないとは思ってなかったからショックだったよー」
ぐでーっと私に体重をかける様にして、健三は言った。その重みすらも嬉しいとバカップル全開な私を出すのは恥ずかしかったから、謝罪の言葉よりも罵ることにした。
「大体、あんたが私を不安にさせるようなことするから悪いんでしょ…」
「晴美は弱いね。だけど、そんな晴美が大好きだから」
もっともっと俺に染まって、弱くなってよ。と耳元で囁いた。
甘く優しい声に身体を震わせてながらも答える。
「酷いわ。でも…」
「でも?」
健三が意地悪く笑う。小さい頃はこんな風に笑う子じゃなかったのに、と小さくぼやいてから言った。


私はそんな健三が好きなのよ





2014.3.29
end

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