高尾作品創作

□愛しの鋼十郎様
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大好きです、鋼十郎様。

何度呟いたのか分からない程使ってきた言葉をいつものように、人形に言う。
勿論人形は返してくれないけど想像の中だったらこの子は鋼十郎様。
笑顔で『僕も愛しているよ』と返している。

本当に現実の鋼十郎様が私のことを愛してくれてることなんてないのは分かっているけど…想像の中ぐらいは良いでしょ。




「風茉!この私が来てあげたのよ。構いなさい!」
風茉に向かってソファに座り込みながら大声で叫ぶ。
私はある目的のために風茉の元へとやって来たのだ。
「げっ、一美が何でここにいるんだよ。まさか…咲十子、一美を家に入れたな」
「だって外の寒い中で一人で立ってたら入れたくなるでしょう?」
しかめっ面の風茉は咲十子さんを見ると、明らかに表情を変えた。
私を見てるときは怒ってた(どちらかと言うと怯えていた?)のに、咲十子さんを見たらすっと笑顔が増えたというか。
つまり一番言いたいのは。
いちゃいちゃ光線出しすぎて公害だ、バカ野郎共ってこと。
「そ、そうだな…」
「ってことで構いなさい、風茉」
「ってことでってどういうことだよ」
「つまりはあーゆーことよ」
「尚更分からない」

「…むぅ」

後ろで私達の掛け合いを見ていた咲十子さんが頬を膨らませた。
えっと、年柄にもなくナニやってるんですかあの人。
「すまん。暇にさせて、別に一美とは仲なんて良くないからな?」
「な、な!?別に嫉妬してる訳じゃなくて…ただ、つまらなかっただけで…」
それを世では嫉妬と言うんですよ。
「悪かった。つまらなくさせないから一緒に遊ぶか」
その嫉妬されてることを喜んでいるであろう風茉。
私といたときには笑いもしなかったくせに、デレデレと鼻の下を伸ばしている。
気持ちわるーい。
「あれ、そうしたら一美ちゃんが一人になっちゃうじゃない」
「良いんだ、アイツにはハガネがいるから。な、ハガネ。構っておいてくれ」
バカなくせにやるじゃない。
「はい、分かりました」
「わっ」
後ろには鋼十郎様が立っていた。
私が今日風茉の家に来た一番の理由がたった今果たされた。
今日は鋼十郎様に会うためだけに来たのだから。

「では、何して遊びましょうか?」
鋼十郎様が私のためだけの最高の笑顔を見せながら、私に聞いてくれた。
「え、えっと…鋼十郎様がお好きなお遊びでお願いしたいと思います」
ぶほぉっ と後ろで風茉が吹き出す声が聞こえた。
うん、後で絞めてほしいのね。

「お絵描きは好きですか?」
鋼十郎様が私に質問して下さっている!
そのことに感動して危うく答えるのを忘れそうになったけど、頭を縦に振って答えた。
「やっぱり女の子ですね」
ぽんぽんと頭に乗せられた手がスゴく心に響いた。
私は鋼十郎様にとっては女の子でしかなくて、ずっと一人の女性としては見られないの?
だけど鋼十郎様は意図してそんな言葉を言ったんじゃないことは分かっているから笑顔で返した。
「じゃじゃじゃじゃっじゃじゃーん」
とても聞いたことのあるリズムで鋼十郎様がポケットから取り出したのは色鉛筆と筆と画用紙だった。
明らかにサイズ的に取り出し不可能なのに、可能にしてみせる鋼十郎様が最高にカッコいい。
「ぅふふふふ…鋼十郎様ったら…可笑しいですわ」
「笑った方が可愛いですよ。その笑顔もっと見せてください」
「ふふ…」
口元に寄せていた手を止めた。
鋼十郎様がいつもの柔らかい笑顔で私の笑顔を見ていたのがスゴく恥ずかしくて。
でも褒められたことがスゴく嬉しかった。
きっと鋼十郎様は私が鋼十郎様の前で緊張しているのを知って和ませてくれたのだと思う。
なんて素敵な大人なんだろう。
熱い想いが胸に貯まって息が出来なくなりそう。


私も、年の差があったとしても風茉と咲十子さんのように…いや、それ以上に鋼十郎様と大人な関係になりたい。
そして、私のお人形との会話が現実に起こるようなことになりたい。
もう私は分かっているから。
私を最高に幸せにしてくれるのは鋼十郎様以外有り得ないから。


大好きです。鋼十郎様。
僕も愛しているよ。


2014.2.12
end

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