高尾作品創作

□姉ですけども
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「晴美」

僕が呼ぶと晴美は振り向いた。
その際にポニーテールを外した髪がフワリと舞った。

「何?」
「何でもない。ただ呼びたくなっただけ」
「変なの」

そう言って晴美は本に顔を戻した。
僕の目の前で本を読んでいるのは双子の姉の晴美。
だけど僕は一度だって姉さんだと思ったことはない。
名前で読んでいるからって理由もあるけど、僕は晴美を一人の女性として見ているから。
晴美は学級委員を務めているお陰で性格はキツい。
だから男子達は晴美の優しくて可愛い本当の性格を知らないんだ。
ラブレターを貰ったことなんて一度もないし、告白されたことだって一度もないけど晴美の良さは僕だけ知っていれば良い。
彼氏なんて出来なくて良い。
僕がずっと…一生晴美の側にいるから。


ある日の放課後。
「どういう…意味?」
「そのまんまよ。今日は一緒に帰れないから先に帰っててってこと」
「何で。いつも一緒に帰っているのに」
「うー…私にだって秘密はあるのよ?詮索しないでくれる」
言い残すと、晴美は鞄を背負って教室を出た。
当然僕は頭の中で悪い考えがぐるぐると回ってしまい、動くことが出来なかった。
何で僕と一緒に帰れないの?
同じ部活だから今日部活がないことも知っている。
それに、今日は母親が帰ってくるのが遅いことだって。
…もしかして。
晴美は僕に言ってないだけで好きな人がいて、その人と一緒に帰るとか。
晴美に限ってそんなことは有り得ない。
頭では理解していても心が騒ぐ。
どくどくと煩く高鳴り、不安を煽る。
「…よし」
僕は意を決して真実を確かめることにした。
結果がどうであれ僕は知らなくてはいけない。
そのためにも僕は走って教室を抜け出した。

晴美の後をつけるために。

晴美の足は遅いから(僕が早いからかもしれないけど)すぐに追いついた。
晴美は校舎を出たばかりだったけど、隣には誰もいなかった。
しかし挙動不審に辺りをキョロキョロと見ている。
僕の尾行は大好きな忍者の才蔵君を真似してるから完璧なはずだから、僕以外の誰かを探しているのか?
ダメだ、ダメだ。やっぱり発想が悪い方向へと向かって行ってしまうよ。そんな訳ない。
晴美から好きな人の話なんて聞いたことないから。
すると、挙動不審だった晴美は突然走り出した。
「やばっ」
撒かれると思って僕も走ると、晴美は店の中に入っていった。
外観は晴美が一人で入るような感じがしなくて、『漢!!』と書かれた看板がぶら下がっている。
まさか、ここで晴美は誰かと待ち合わせしているのか?
僕も晴美が入ってからしばらくして店内に入った。

「…おふ」
店内に入った瞬間の僕の気持ちを一言で表すとしたら…絶句。
言葉を失うかと思った。
それは良い意味で。
辺り一面に広がるのは忍者グッズ。
手裏剣や、まきびし、刀が大量に並んでいる。
触れてみたら指が切れたから恐らくこの品物は全て本物だろう。
しかし、何故晴美はこんな忍者グッズが大量の店に入ったのだろう。
店内でも晴美の行動を監視していると、晴美はいろんな商品を物色しながら小さな小刀を手に取った。
そしてそれをレジに出して言った。

「この刀の柄に健三って彫ってくれることって出来ますか?」

間違いなく晴美は健三と言っていた。
それは僕の名前だ。何で晴美が僕のために小刀を…?
「あっ」
思い出したことに対して思わず声を出して驚いた。
明日は僕の誕生日だ。
(当然のように晴美の誕生日でもあるけど)
僕はすっかりそのことを忘れていたのに、晴美は覚えててくれたのか。
晴美を疑って尾行した自分が無性に情けなくなって、僕はその店を飛び出した。

しかし、晴美が僕にプレゼントを贈ろうと考えてくれているってことが何よりも嬉しかった。
「晴美の誕生日…何をプレゼントしようかなー」
ぼんやりと呟きながら家へと向かう。
先程とは違い、胸が熱く心が踊っていた。



2014.2.15
end

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