高尾作品創作

□暴力の理由
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注意
学生パロ(?)
二人が忍びとか姫とか関係ない設定



「ほらっ、才蔵!ホコリが残ってるわよ!」
僕を大声で呼ぶのはしのぶさん。
同じ班の女子なんだけど、掃除とか面倒くさいことは全て僕に任せるくせに色々と指示をする。
「ふ、ふう…分かりました。今行きます」
「全く…あんたって本当に使えない」
首を振りながらしのぶさんはため息をついた。
別に僕がしのぶさんの分の掃除もやっているんだから何も言わなくても良いじゃないかと悪態をつきたかった。
けど、言えないのは僕が小心者過ぎるから。
「すいません…」
「こらっ、しの姫!また才蔵くんに掃除やらせてるの!」
またまた大きな声が響いた。
どうして女子の皆さんは登場する時に叫ぶんだろうか。
「げっ…晴美…」
しのぶさんは顔をしかめた。
今まで指示していたのが嘘のように僕のモップを奪い取り、掃除をしているように見せかけた。
僕に怒鳴るしのぶさんだけど、学級委員である晴美さんにはものスゴく弱いのだ。
「何よ。ちゃんと掃除やってるわよ?」
平然とした顔で、突然教室に入ってきた晴美さんに答えた。
「…私にはちゃぁんと聞こえていたからね。しの姫が掃除してないの」
けど、結局はバレていた。
「くっ、なら才蔵に聞きなさいよ。才蔵がやらされていたかどうかはっきりするでしょう?」
しのぶさんが僕を睨んでくる。
これは、アレだ。僕が嘘をついてしのぶさんは掃除をしていたと言わないと怒られるパターンだ。
「本当?才蔵くん」
「ええ。しのぶさんは僕と一緒に掃除をしていましたよ」
「ナイスよ。才蔵」
パンパンと僕の背中を叩くしのぶさん。
貧弱そうな見た目とは違い、結構力は強い。
「ふぅん…才蔵くんが言うなら本当なのかしら…じゃあ、ちゃんと掃除するのよ、しの姫」
掃除してない人に怒る仕事があるなんて学級委員は大変だなぁ。
と、客観的に憂いた。
そして、晴美さんは僕の顔を見て一瞬顔を赤くしてから頭に手をのせた。
「頑張ってね」
意味深な応援だった。
「ありがとうございます、晴美さん」

その時、背中に激しい痛みが走ると同時に教室いっぱいに破裂音が響いた。
「…っ!!?」
「ちょっとしの姫!」
「あら、失礼。ハエが止まっていたからつい…でも、逃がしてしまったわ」
「才蔵くんを叩きたかっただけでしょう!」
晴美さんがスゴい剣幕でしのぶさんに詰め寄る。
「何か?」
けど、しのぶさんはやはり平然としていた。
さも自分が悪くないような態度もつけて。
「晴美さん、僕は痛くないから大丈夫です。きっとしのぶさんはハエを追い払いたかったんだと思います」
「…そう」
晴美さんは低い声で返した。
けど納得した様子ではあった。
「そうよ。晴美、しの達はちゃんと掃除をしているのよ?邪魔になるとは思わないの」
「そ、そうね…ちゃんと掃除するのよ」
帰り際に晴美さんはしのぶさんにいったが、その返事は「はぁい」と適当だった。


掃除が終わり、僕は荷物を纏めていた。
「ちょっと才蔵…来なさい」
「はい?」
教室の中にいるしのぶさんに呼ばれ、僕は教室の中に入った。
掃除が終わった教室には、もう僕らしかいなかった。
「さっきのことだけど…」
机の上に座るしのぶさんが恥ずかしそうに身体をくねらせた。
「叩いたことですね」
「そう。さすがにあれは私が悪かったわ。傷になってない?」
とても上から目線だけど、しのぶさんにとっては素晴らしい謝罪だった。
「いえ。大丈夫です」
本当は痛くて、鞄を背負うだけでじんじんと痛みが増すけど。
「けど、本当にハエがいたのですか?」
しのぶさんは表情を見られないようにするためなのか、僕に背を向けた。
「ハエがくっついた人間としのが会話するわけないじゃない」
つまりは僕にハエがくっついていなかったと。
「では、何故?」
僕は理由もなしに叩かれたのか?
背を向けているしのぶさんの声が震えた。

「…分からないけど。晴美と話している才蔵を見てイライラしたのよ…!」

それって、嫉妬じゃないですか。
という言葉は驚きのあまりなくなった。
僕はそんなに鈍感な方ではないと思っていたけど、しのぶさんがこんな感情を抱いているなんて知らなかった。
嬉しいし、恥ずかしい気持ちが交ざって喉の奥が苦しくなる。
今までしのぶさんはこんな気持ちで僕に命令したり暴力を奮っていたのだろうか。
それはそれで愛情表現だったのか?
しかし、そんな愛情表現は通じないよ。
頭の中でごちゃごちゃと考える内に、なんだか面白くなって僕は笑っていた。
「っぷふふ」
「な、何よ!何か可笑しいの!?」
振り返ったしのぶさんの顔は予想以上に赤かった。
「しのぶさんは恋愛下手ですね」
そう言い残して教室を出ると後ろからしのぶさんの焦った声と、足音が聞こえて尚更可笑しくなった。
「ちょ、待ちなさいよっ…」
僕の背中にすがるしのぶさんはもう今までのように勝ち気でワガママな女の子じゃない。
可愛らしい女の子だった。
それがとても嬉しくって、嬉しすぎて意地悪したくなるようなそんな気持ちになった。
「何ですか」
いつものしのぶさんのような平然とした顔で聞くとしのぶさんはあわあわと口を忙しく動かした。
「ないなら帰りますよ」
冷たく言うと更にしのぶさんは顔を赤くした。

今までのしのぶさんはどこにいったんだろう。
まあ僕はこっちの素直なしのぶさんの方が扱いやすくて好きだから良い。
けど、僕にこんな冷たい感情があるなんて知らなかった。
慌てるしのぶさんを見てこれまでにないくらいに僕は喜んでいる。

きっと、これからの僕らの関係は変わるだろう。



2014.2.15
end

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