捧げ物

□6666番キリリク
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「リン、腹へった」

レンは鈴の様な柔らかい声で私を呼び、腰元に抱きついた。双子なのに弟なのに、私よりも逞しくなった腕に包まれて少しくすぐったい。

「リン、じゃなくて『お姉ちゃん』。もしくは『姉さん』って呼びなさいって何回言えば分かるの?」
「分からない。俺はリンって呼びたいの。それに、名前で呼んだ方がリンも喜ぶでしょ」
レンはすりすりと腰に頬を擦り付けた。
ぐ、と喉が詰まった。確かにそうだけど。名前で呼ばれると心臓がもたないから嫌なんだよ。
けれど、そんなことレンに言えるはずもなく。レンの言葉を無視する形で返事した。
「双子でも生まれたのが先なんだから、言うこと聞きなさい」
「ふうん。そーんなこと言うんだ」
レンが急に真面目な声になったから、思わずびくりと身体を震わせた。

「お姉ちゃん」

─ブルルッ!
鳥肌が耳から全身に広がった。寒いから?それは、違う。レンが私の耳元で囁いたから。
「ねえ、何で返事してくれないの。お姉ちゃん?」
きっと、私の耳はレンの声にやられて真っ赤になっているんだろう。
そして、レンはそれを分かって何度も耳元でお姉ちゃん、お姉ちゃんと囁く。
私がドキドキしているのに気がついた上で苛めるなんて酷い。なんて、お姉ちゃんと呼べと言った私は言えない。

「お姉ちゃん、耳赤いよ。どうしたの?」
わざとらしくツンツンと私の耳をつついてはクスクス笑う、双子の弟。
いつの間にこんな小悪魔になったのよ、と心の中で悪態をつきながらも必死に冷静を取り繕う。
「……熱が、あるの。きっと」
「へえ」
私をからかう様なおどけた声はなくなって、また真面目な声に変わった。今度は必死に耐えて震えないよう我慢した。
レンの低い声は腰に響くから凄く、イヤだ。まあ、好きだけどさ。

「じゃあ、寝よっか」
「え、ええっ!?」
フワッと、宙に浮いたと思ったらどんどん床は遠ざかっていく。何事だ!と暴れたら「落ちるよ」とレンが笑った。
そこで、ようやく気がついた。私がレンにお姫様抱っこをされていることに。
「お、重いでしょ?離してよ」
「ここで離したらお姉ちゃん、怪我するよ。良いの?」
「そ、それでも良いから。ほら、私の重さでレンの腕が折れちゃうよ……」
返事はなく、レンは少し不満気な表情を見せた。そして、小さく呟く。
「黙って俺の腕の中にいてよ」
カアッと、顔が熱くなった。
な、んで……そんな甘い言葉をさらっと言えるのよ!!とか、怒るポイントでもないけど怒鳴り付けたい衝動に駆られる。
何も言えずに、抵抗を諦めレンの腕の中で落ち着いているとレンは何を思ったのか、私の頬に唇をつけた。
チュッと可愛らしいリップ音が、頬で聞こえた瞬間時が止まった。
え、え!え、え、え?疑問だけが空を飛び、私を困らせる。次に私を動かしたのはやっぱりレンの笑い声だった。

「お姉ちゃん、可愛い。トマトよりも真っ赤だよ」
「な、え……ちょっ」
(訳→何で?えっと、ちょっと意味が分からないんだけど)
「お姉ちゃんが大人しく俺の腕の中にいるから、ムラムラっときて思わずしちゃった」
「……し、しちゃった、じゃないでしょーが」
「嫌。だったの?」
何も言えなくて、黙った。
嫌な訳ない。レンのことは好きだし、大好きだから嬉しいことなんだけど。こうやって実際してみると恥ずかしいしかないといいますか。
これを全部言ったら、どうせレンのことだから調子に乗るしだからといって嘘ついたらそれはそれでレンが傷つく。
うわー、どうしたら良いんだー。と、ゴロゴロ転がりたかったがレンの腕の中なので自粛。

「嫌だったと、思うの?」
「その顔見たら、凄く嬉しかったんだなって分かるよ。あと、もっとキスして欲しいってことも」
レンは意地悪く笑った。
「わ、私。そんな淫らな顔してないってばー!」
私の抵抗も儚く、レンのキスの雨を沢山浴びたのでした。


(end)


→あとがき
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