お題小説

□あなたといると疲れます
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後輩レン→先輩ミク


「先輩っ!お弁当食べましょー」
ガチャガチャと五月蝿い見た目の男の子、1つ下のレンが私の机の前に来た。
「何で今日も、ですか」
「僕はこれからずうっと一緒にお昼ご飯をとりましょうね!って言ったんですよ」
「そんなの」

言ってないじゃないですか。と、言おうとして止めた。私は昨日の彼との会話を思い出していた。
毎日、毎日しつこく私の元にやってくるレン。何度もお昼を一緒に、と誘うものだから一度だけという条件で付き合った。
私には分からないけど顔を真っ赤にして舞い上がったレンはベラベラといつもよりも口数が増え、私はついていけなくなったので適当な間隔で頷いていた。
うん、へえ、はい、そうですねー……なんて心のこもっていない返事を。
もし、この時にこれからも一緒にお昼を食べましょうね……的なことを言われていたとしても、私は分からない。
会話の内容なんて聞いていない私の頭になんか、入っていないもの。

「はあ」
小さく溜め息をつくと、レンは心配そうに覗き込んだ。
「具合が悪いんですか?」

具合が悪いように見えるのでしたら、貴方のせいですよ。と、舌先まで出かかって飲み込んだ。
だって、本気で心配した顔をしているのだもの。
そんなレンにお前が原因で、疲れているのだなんて残酷なことを言えるはずがない。

「少し、体調が優れないんです……」
少し伏し目がちに言うと、レンは異常な速さで私を抱き上げた。え、抱き上げた?
「そ、それはいけないです!!!病院行きましょう!いえ、救急車でしょうか!??」
「ちょっ、と。待ってくださいってば……何でお姫様抱っこしているんですか!?」
仮にもここは教室ですし、皆見てますんで一旦降ろしましょう?私は元気ですから。ね?
という私の言葉は耳に入っていないレンはそのまま教室を飛び出した。

激しい速さと揺れで本格的に具合を悪くしてしまったので、目を固く閉じていると揺れが収まった。
レンが立ち止まったのだ。
そして、降ろされた場所が病院でも救急車でもない学校の水のみ場前だったので安堵した。
突拍子のない行動ばかりするレンなら、学校を抜け出して病院まで担いで行きそうな気がしたのだ。

「大丈夫、ですか?」
再度レンが不安な眼差しを向けながら聞いてきた。
もう、そんな顔されたら。ダメ。
「ぷっ、ふふっ」
「えっ。ミク先輩の笑顔可愛い……じゃなくて、痛すぎて変になっちゃったんですか!!?」
可笑しくて笑ってしまうじゃないの。
それなのにレンは飼い主に叱られた犬の様に、ウロウロと私の周りを動いては様子を伺っている。

「もう、貴方といると疲れます……」
笑って言ったはずなのにレンは衝撃を受けた表情を見せた。
「な、何ですと!?じゃあ、僕離れるから元気になってくださいぃぃぃっ……」
と、どんどんと廊下の奥へと突っ走るレン。
いや、そういう意味じゃないんですけどね。走れっていう意味じゃなくて……。
まあ、説明しなくて良いか。するのも疲れるし、話すのも疲れるし、振り回されるのも疲れるし、レンがいないと落ち着かなくなる自分を想像して疲れるし。

ふう、と小さく笑ってから廊下の奥にいったレンに「もう私大丈夫だから、お昼ご飯食べましょうよー!」と言うと、コンマ数秒後に笑顔のレンが駆けてきた。


2014.11.5

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