お題小説

□俺以外見ないって誓ってくれる?
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注意
レンリン、ちょい裏






「…っ、はぁ…はぁ」
口からはため息に似た吐息が漏れる。
熱を持った頬はじんじんと痛む。ああ、血が出ているのか。なるほど。
私は何故かこんな有り得ない状況なのに妙に冷静だ。
驚きが度を超えて冷静にさせるのかは分からないけど。
…じゃあ、今私に起こってることを説明しよう。


私は弟に監禁されそうになっているのだ。

私には双子の弟がいて親も間違える程似ていた。似ていたのは外見だけだったんだけどね。
何をするのも一緒で同じ部屋で、同じ学校に通い、同じクラスで同じ勉強を学び自分の分身かの様に互いのことを理解しているつもりだったけど。
そうじゃなかったみたい。
私がレンと違う部活に入ったのをきっかけにレンがおかしくなったのを覚えている。

「何で俺と違う行動をとるの」

今まで同じことをしてきたのはたまたまで私の心の中ではたいして大きな物じゃなかったんだけど、レンは違ったんだね。
その言葉に疑問符がついていないことから、これは私への命令だと理解した。
これからもずっとレンと同じ行動をとらなくちゃいけない。
つまりはレンとずっと側にいなければならない。
多分あの短い言葉にはそんな意味が込められていたのだと思う。

それからも頻繁に私を縛りつける様な言葉を並べて今日に至る。
今まで変な節はあったけど姉の私ですらまさかこんなことになるとは思ってもいない。
手は後ろで手錠をかけられていて、足にはガムテープがぐるぐる巻き。
珍しく弟が笑顔で「お姉ちゃん遊ぼ?」と言ったから無条件で頷いたらこうなったのだ。
私にとってはこれで遊んでいるという発想にはならないけど弟にはなるのだろうか。
そのあと更にガムテープを取り出して笑顔で私の足に巻き付けた時に何か変だと気づいていれば良かったのに、私はバカで疑いもしなかった。
まあ、結果がこれで後悔しても遅いんだけど。


「これでどうやって遊ぶの?」

取り合えず反抗しないで聞いてみた、が。何かがレンの勘に触ったらしく頬を蹴り飛ばされた。
上体が後ろに反れ頭から後ろに飛んで行く。
「っ…!?」
声にもならない悲鳴が微かに漏れた。
相手は一応未発達ではあるけど男子だから例え軽くだったとしても凄く痛い。
ずきんずきん、頬が痛い。鉄の味が口の中で充満する。



そして現在。
私は頬を押さえながらレンを見て座っていた。レンは私を見据えながらじっと黙っている。
私の呼吸も落ち着き、部屋は酷く静かだ過ぎて妙に怖くなった。

「…遊ば、ないの?」

再び蹴られても言う言葉がこれかと自分でも驚いたが、言うべき言葉がなくって考えた結果のこの言葉だった。
するとレンは眼を細めてから口角を上げた。

「…遊んで欲しいの?じゃあ、遊んであげようか?」

遊ぼ?と最初に言ったのはレンのはずだったのにレンの言葉のニュアンスでは私がどうしても遊びたいようにとれる。
いや、そこまで遊びたい訳じゃないから。
あとレンの意味する遊ぶは私が考えている可愛いものじゃないと思う。
それは手錠とガムテープが物語っている。
むしろこの状態で健全な方向で遊ぶ方法を教えて欲しい。

ぱぁんっ!

平手打ちが頬に入った。激しい音に眼を閉じたあとに鋭い痛みがやってきて、一瞬何が起こったか理解が出来なかった。
「ーーッ!」
また、私は頭から床に落ちていった。
ぐあんぐあん、目の前が回り末端がじんじんする。何で。何で殴ったの?でも、呂律が回らない。
「ら、んで…」
「今まで姉さんが俺で遊んできた分遊んでやるんだ」
レンの口調は楽しげで、私の置かれている状況とは全く違った。
俺で遊んできた…その言葉が引っ掛かる。レンと遊んだことはあるけど、レンで遊んだことはない。
言い間違いで「と」だったとしても、私たちの遊びで殴るといったことは入ってなかったはず。

「その顔分かってないみたいだね」
レンが睨んだ。綺麗な顔を歪めている。でも美しいから仕方がない。やっぱり綺麗。
「分かって…」
「姉さんに分かるはずないね。なら、説明してあげるよ」
説明されることで私とレンとの食い違いが明らかになると思うと安心した。というよりもなって欲しい。

「姉さん、昨日貴女は何をした?」
「学校行って…授業しただけだよ。部活も休みだったし」
「それだよ」
「へ?」
「学校行ったよね」
「うん。そりゃ、学生だし…」
「俺が風邪引いて学校休んでるのに、リンは学校に行ったの?」
眼が怒っている。私には理由が分からないが取り敢えずこの場を納めようと謝った。
「ごめんなさ、い…」
「許して、欲しい?」
本当は許して欲しいとか思ってないけど、思ってないと言うと後が怖いから乱暴に頷いた。
するとレンは広角を上げた。

「じゃあ、俺以外見ないって誓ってくれる?」

レンは壊れた人形のように首を傾げた。どちらかというと立場的に私の方が人形なのに。
レンのその態度が嫌でも頷かせた。何か、刃向かえない。刃向かったら怖い。そんな気がしたから。
「そう、偉いね」
レンが優しく私の頭を撫でた。慈しむような、恋人を撫でるときのような優しい瞳。



私がその瞳を見たのはその時が最初で最後だった。






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こういう感じのストーリーを極めたいです。個人的にこんなシチュが好きなんですけどなかなか上手に書けないので。

ラストは想像にお任せします。

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