お題小説

□そして再び惑わされた
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注意
鏡音を基本としたカイリン
時代背景とかは中世ヨーロッパのような



彼は私とは身分違いの人だってことくらい、ずっと前から分かっていた。
けどどうしようもないくらいに好きになってしまった。

私は主人である彼…レン様に仕える身であるというのに。

彼は皇子でこの国で一番偉くて権力を持っている方。金色の頭髪と青い目は全ての民を魅了し、彼の上手な言葉に皆尊敬した。
そんな彼は幼い頃にその地位についたというのに、職務をまっとうして民衆の憧れの的になっている。
それに今までの汚い大人達とは違った新しい発想を用いた政治が良かった。

私は皇子として最高な彼の側で従者としてずっと仕えてきた。
同い年ということもあり、彼は身分の違う私にも優しく接してくれた。
時には友人の様に、時には兄の様に、時には弟のように悩み事を打ち明けてくれることもあった。

そんな彼はある時、実の姉のミク様を愛していることを告げてくれた。
勿論、私は大好きな彼が大好きな人と結ばれることを望んだ。
しかしそれは叶うことはない。
それは実の兄弟ってこともあるけど、ミク様は敵国のカイト様に嫁ぐ身だったから。

告げてくれた日。
レン様は私の胸で泣いた。
「僕がどんなに彼女のことを想ったって結ばれることは出来ない。こんなにも彼女のことを愛しているのに…どうして?」
今まで力強く民衆を支えてきた彼は、私の腕の中でぼろぼろと子供の様に話した。
誰も知らない彼の本当のスガタ。私のことを想ってないからこそ見せてくれるスガタだって分かっているけど、嬉しかった。
彼の力になりたかった。
「レン様、私が何とかします」
だから、言ってしまった。
「何とかって…」
彼は不思議そうな顔で私を見つめた。
「レン様はミク様を愛していられるが、ミク様にはカイト様という許嫁がいらっしゃる。つまり、カイト様がいなくなればミク様をレン様のに出来る可能性が残るという訳です」
「…そんなこと、僕だって考えた」
「でも実行していませんよね。行動してみたら現状が変わるかもしれないのに」
「…っ!」
「だから行動しましょう?」
「でも、僕は一国の皇子で…!」
彼は大きく声をあらげたのに語尾を弱めて続きを止めた。でも私には分かる。
この後続く言葉は『一国の皇子であるから人殺しなんて出来ない』ってことを。
そんなの分かってる。この提案を言う前から彼に人殺しをさせる気なんてなかった。
彼は素敵な綺麗な人。唯一の人。だから彼に人殺しなんてして欲しくない。
けど私はいくらでもいる従者の一人。代わりなんていくらでもいる。だから、私が人を殺すの。カイト様を殺すの。
「知ってます。レン様は何もしなくて良いんです。全て私が行動しますから、ね?」
彼の唇に人差し指のを押し当てて、彼の言葉を制止させる。
だって彼の口から『僕の為に君が殺る必要はない』なんて言われたら殺人を止めてしまいそうだったし、彼は優しい人だから絶対に言うって分かっていたから。
「明日の夜は、是非ミク様と親睦を深めて下さいね。でも決して一人で部屋に閉じこもるなんてことは止めて下さい」
そう言い残して私は彼の部屋を去った。このまま彼の部屋にいたら私を止めると思ったから。それは嫌。
明日の夜、私がカイト様を殺める日。これで彼のアリバイは確実になり誰にも疑われなくなる。
そうすればカイト様がいなくなりミク様とレン様は愛し合うことが出来る。
彼を愛する私には少し辛いことだけど、彼の笑顔を見られるのなら愛のキューピッドにだってなってやる。
全ては彼の為。
一度彼の甘い魅惑に惑わされた私は、全てを彼に注ぐの。身分違いだからこそ、大量に。


そして、私は実行する。
「ミク様の従者の私が、ミク様の代わりに後に住む城の下見に来ました」
カイト様の住む城の門番に言うと、すぐに入れてくれた。
バカな人達。これから貴方達の大事な指導者を消す人だっていうのに。まあ、相手がバカだとこちらはやりやすいけど。
広い城内の造りはほとんど私が仕えてきたお城と代わりがなくって、カイト様はここだよと教えてくれているようなものだった。
一際目立つ、カイト様の部屋の入口。
私はポケットの中に隠し入れたナイフを握りしめてから、迷うことなく部屋に入った。

明かりは唯一、月の光だけのその部屋の窓辺で怪しい雰囲気をただ寄せながら立つ男がいた。
キラキラと粒子を帯びているのかと錯覚するくらい、綺麗な青い髪の男。
月の光に照らされて白い肌が更に白くて今にも消えてしまいそうにも見えた。
「誰ですか?」
男はゆっくりと振り返った。後ろ姿だけでも分かっていたが端正な顔の持ち主だった。その美形を輝かせるかの様に頬には一筋の涙が流れていた。
「私はミク様の従者です。ミク様が時期に嫁ぐ城なので先に私が下見に来ました」
男の涙に気をとられながらも事前に考えていた嘘を連ねては吐いていく。
「貴女は嘘をついてますね」
男は乾いた笑いを見せてから言った。まさか、予想していない言葉に心臓が凍りそうになる。
「…何故」
分かったのですか?とは聞かない。もしかしたらハッタリかもしれないから。けどそんなハッタリをつかれる様なへまをしでかしてもいないから、不安になる。
「僕は目が見えない代わりに耳が人の数倍発達しているのです。だから、焦った声嘘ついている声穏やかな声全てが分かってしまうのですよ」
男は再び乾いた笑いをあげてから、私がいる方向に顔を向けた。
しかし、私の目線と一切交わろうとしないところや脱色した瞳を見て、男が目が見えないことを確信に変える。
けど、この人はカイト様ではないのか。私の知りうる情報ではカイト様は目が見えていた。
「貴方は誰ですか」
「知ってるから来たのではないのですか?貴女はナイフを握っているからてっきり僕を殺しに来たのかと」
「…見えてるんですか」
「見えてたら貴女がどれだけ美人な女性だか分かったのでしょうね」
男は再び笑った。私の目的はこの男、カイト様を殺すことだけなのに何故こんなにも話をしている。
どうも調子が狂ってしまう。
私は焦って握りしめていたナイフを胸の前に構えた。
「私が来た目的も全て分かってるならもう良いです。貴方の雇う者達が来る前に殺すだけのこと…!」
素早く彼に駆け寄りナイフを思いっきり突き刺した。




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