お題小説

□思わせ振りは君の特技だ
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注意
カイメイ
やっぱりな関係








仕事を終えて扉を開けた瞬間だった。

「やっほぉ〜」
上気させた顔でめーちゃんが俺に手を振った。いつになく上機嫌である。
「あー。またか」
結構こんなことはあるから頭を捻った。
「ん?」
コンっと足に当たったのは一升瓶。それがゴロゴロと転がっている。一体何本呑んだんだ。しかし手にはまだ一升瓶が。
「めーちゃん…もうダメだよ」
取り上げようとすると口に空気を溜めて膨れた。む、可愛い…

「やぁら。まら呑むもん」

舌が回っていなくてへろへろした話し方がギャップで半端なく可愛く見える。いや、いつも可愛いんだけどさ。
「カィト、晩酌しなはい」
「ダメ」
「むぅ」
上目使いで俺に訴えてくる。
「…一杯で終わりだからね?」
それだけで許してしまう俺は何と優しいのだろうか。

コップを取り出して半分ぐらいまで焼酎を注ぎ渡すと、めーちゃんは更に上機嫌になった。
「うぃ。あいがとー」
満面の笑みで俺を叩いてきた。

酔っ払いのめーちゃんは好きじゃない。いつもの格好よさが崩れて、ニコニコ笑っている。そんなの反則だよ。

「あんらも、呑まらいろー?」

その上目使いを止めて下さい。マジで。レッドカードですから。
「呑んれ」
俺の返事など聞かずにコップを差し出してきた。
「って、コレめーちゃんが口つけたやつでしょ」
「んー、カィトだからいーの」
「…っ…」
カイトだから、という言葉に反応してしまう。本気で男として見られてないんだと再確認させられて心臓が痛い。

「めーちゃんは、俺のこと何だと思ってるの?」

言って気が付いた。言い方が悪かったと。こんな言い方じゃ怒っているみたいだと。
「あ、違うよ。そんなんじゃ…」
唇に人差し指を付けられて、静止された。
「んーな、事が気になるのー?なんれー?」
何故か更に笑顔だ。
「どー思っれれ欲しいろ?」
やっと唇から手を離してくれた。
「ん?」
言ってみ、と促しの意味でめーちゃんは首を傾げた。そんなことされても。

「ちょっと位は好意を持っていてくれたら、嬉しいなーって」

「ふぅん」
眉間にシワを寄せた。何か不服だったのか。
「アタシが好意持ってないって、そー思ってるの。バカじゃないの」
舌っ足らずな喋り方が変わり低くなった。
「バ、バカ…?」

─瞬間

めーちゃんが俺の胸ぐら掴んで押し倒した。そして俺の腹の上に跨がる。
「め、めーちゃん…!?何やって!」
「好意を持ってなかったらこんなことしないっつーの…」
「酔っぱらってるよね!?」
つつ…っと頬を指でなぞり何も言えなくなった。言葉にならない快感が腹から上がってくる。

「私がこんな事するの…あんらだけよ。つまり…」

そこでめーちゃんは力尽きた様に倒れ重なった。
「め、めーちゃん?」
すぅすぅと柔らかい寝息が聞こえてくる。もしかして、寝たのか。
「ははは…つまりの後が聞きたかったな」
何でこんなタイミングで寝るんだろう。本当に…めーちゃんは…不意打ちで。


「思わせ振りは君の特技だね」


彼女に振り回されるのを楽しんでいる俺も俺なんだろうけど。













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