幻想水滸伝

□]V
1ページ/2ページ





冷たい風が吹き、暗くなり始めた空へと漆黒のカラスが一羽飛び立ったのを馬上から見送った

ササライは、ハイランドへ向かう道の先へ視線を落とす

「胸騒ぎがする...ディオス、君はハルモニアの守護神であるミア様が、この戦いの後、本当に戻ってくると思うかい...?」

「わたくしには難しい質問ですね...」

ササライの馬の手綱を引く副官ディオスは苦笑いを浮かべるとそう答えた

僕は_

戻って来てはくれないと思うんだ_

だって、彼女はずっと、外に出る機会をあの何もないあの部屋で待っていたように見えたから









ノースウィンドゥ城へ戻る頃には空は暗くなり、小さな星がいくつか空に浮かび始めていた

「もう平気なの?」

ヒクサクと同じ顔をしたルックが涼し気な表情をして私の部屋へ来て、断りもせずに部屋の椅子へと座った

「...はい」

「面倒だから本題に入るけど、なんで僕を助けたの?」

こんなに態度を悪くするつもりはなかった
彼女と再会できたことが嬉しくて
今までのレックナートとの生活や、彼女の話を聞きたい_
というのが実の所なのだが...

ビクトールに言われたように自分の性格は、複雑にねじ曲がっているようだ

彼女は甘ったるい香りの紅茶を僕の前に差し出すと、自分の分も机に置き、目の前の椅子へと座る

その落ち着いた雰囲気は確かにあの時感じたものと同じで、彼女を直視できなくなり、視線を紅茶へ落す

「私に...似ていたから...」

「は...?あの死にかけで、出来損ないの僕が?」

彼女は僕とは正反対の人間だ、完璧で、誰からも求められるような存在_

それが僕と似ていた...?

ルックは不快そうに眉間にしわを寄せると視線をミアへ向ける

だが彼女は視線をこちらへ向けずに、落ち着いた表情のまま窓の外へと顔を向けている

「私も、死にたかったの...
でも、自殺するほどの勇気さえ持ち合わせていなかった...
ヒクサクが...彼の事が心配だから_
そう言って、逃げているだけ...今でもそうです...」

「アイツ...何する気なのさ?
真の紋章の器をこれからも作る気なの?
まさかとは思うけど、それに一役かったりしてないよね?」

彼女の瞳が驚きの色を浮かべ、大きく見開かれた目がこちらへ向けられる

僕が紋章の器≠ノされている事を知っているのに驚いているのか
何をする気かと聞かれた事になぜ分からないのだ≠ニ驚いてるのか

それとも、彼女もクローン作りを手伝っていたのか?

どれだろうか、どちらにせよ...

彼女を困らせてしまっている事に違いないのだが




「真なる27の紋章をすべて集める...
その為に、紋章を封印する場所が必要だった...
真なる紋章はその力が強大で、シンダル族の技術以外では、紋章球には入れる事ができません...
ヒクサクは、その為にアナタやササライを生みだした...

もしかすると、私のクローンも作られているかもしれない...

...クローンの存在は、ほんの数年前に知ったの...」

「それって、ササライでしょ?兄さんは神官将、僕は失敗作...

ま、ヒクサクの考えは想像もつかないけど...
今は何とか楽しんで生きてるよ...」

僕の言葉に、彼女の瞳が揺らいで、悲し気な影を落とす

僕は笑みを浮かべたまま、紅茶を一口飲む
想像した以上の甘さにウッ_と表情を歪めて見せた

「もしかして、甘いのは苦手でしたか?」

「薔薇ジャム?入れすぎじゃない?」


ササライやヒクサクは甘党だから、きっと彼もそうだと思ってしまっていた

今すぐに口の中を水で洗い流したそうなルックにジャムの入っていない紅茶を入れ直す

「ササライは甘党だけど、ルックさんは甘いモノは苦手なんですね」

同じ顔なのにね、と笑みを浮かべるミアだが、ルックは甘くない紅茶を一口飲んでも、まだ口を尖らせたまま

今度は何が気にくわなかったのか?
俯く私の耳へと、彼のため息と共に出された呆れ声が入る

「僕の事はルックでいいよ」

「...では、私の事もミアと、そう呼んでください」


無心な微笑みらしいものを浮かべるルックに、ミアは嬉しさに動かされて反射的に微笑んだ

あの日、ルックを助けてよかった...

大人になった彼はヒクサクやササライと似ているのは外見だけで、中身はまるで別人

それに、今は楽しく生きている_

その言葉に救われる思いで胸が暖かくなるのを感じた

「肝心なことは何も聞けなかったけど、話せてよかったよ
あぁ、それと、ミアが結界をはる前に、僕も結界張ってたんだけど...
ま、ミアのみたいに頑丈なモノじゃないけどね」

「なら、今二重の結界が張られているという事ですね...
ルックの魔力がそれでもつのであれば、二重のままの方が心強いのですが...
何せ、私の結界は単なるヒクサク避けなので」



「...アンタほんと、なんで今まであんな変な奴と一緒に居たの?馬鹿なの?」


「...なぜでしょうね;」




ほんと...中身は全く似ていないわ...


__________________


翌日、ミアはフリックに呼ばれ大広間へと呼ばれた


「何かあったのですか?」

「なんでもトゥーリバーから使者が来てて、協力関係を築くとかなんとか...ま、行けばシュウから説明があるだろ」

大広間までの廊下でフリックの背中に問いかけると、フリックは振り返らずにそう答えた

ミアはなるほど、と顎に手をやり頭で考えをまとめる


都市同盟を立て直す為の第一歩...と言ったところか

トゥーリバーは確か、三つの種族、人間、コボルト族、ウィングホードが暮らす町

人間の代表であり市長はマカイという男で、残念ながら、三つの種族をまとめる事は彼には難しいらしい

お互い同じ地に住みながらも隣同士で睨みあって暮らしているトゥーリバーの民たち

「難しい所からの第一歩...ですね」

ミアの呟きに、フリックは、まぁな_と苦笑いを浮かべた


広間へ到着するとリオウやルック、その他の主要メンバーが顔を揃えていた

そして、シュウの前で陰気臭い笑みを浮かべている男、アレがトゥーリバーからの使者か_

そう思いながらもミアはフリックとビクトールの間へと並んで立つ

すると、その陰気臭い男が瞳を輝かせミアの方へ駆け寄ってきた

突然の事で肩を寄せ身を引くミアとその男の間にビクトールが右手を差し出し、男にそれ以上近づくな_と無言の圧力をかけ、男の動きを静止させようとしたが

あと一歩の距離で足を止め、その勢いのままミアへ向かって男は興奮気味に声を出した

「ハルモニアの女神様が本当にこの戦いに加わっているとは!是非!リオウ殿と共にトゥーリバーへとお越し下さい!!!」

「...私はかまいませんが、シュウさんやリオウさんは...どう思われますか;?」

余りの勢いの良さにビクトールの後ろへ隠れるミア、苦笑いを浮かべてチラリと顔を出しリオウへと助けてください_と言わんばかりに視線を送る

どうやら此処に来る前にリオウも自分と同じ事をされたのだろう、顔には疲れと苦笑いが浮かんでいる

「僕はミアさんが一緒に来てくれると心強いんだけど...」

リオウもシュウへ視線を送る、シュウは少し考えてからミアを見た


「同行はかまいませんが、身分は隠してください
以前も言った通り、ハルモニアでのアナタの身分は、同盟国内の人間からするとスパイと勘違いする者もいなくもないので...それでも構いませんか?」

出来ればおとなしく城内で過ごしていて欲しいのだが_

そう付け加えたそうに難し気な顔をするシュウ、ミアはそれを汲み取り、トゥーリバーへの同行を断ろうと思ったのだが、それよりも先に今まで口を閉じていたルックが口を開いた


「ミアが行くのなら、僕も行くから」

「じゃぁ、僕と、ルック、それにミアさんに、ナナミの4人で行きましょう」

どうやら決まってしまったようだ

ビクトールとフリックはまだまだ兵力の足りないこの都市同盟軍に兵を集めるために同行は出来ないらしい

フィッチャーの案内で準備が整い次第、トゥーリバーへと向かう事となった









次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ