幻想水滸伝

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あぁ、ついにこの時が来たんだね

君はまた...戦うのかい?

何故  なぜ  ナゼ...?


僕は、もう見たくないのに...


「君が傷つくところなんて...」









人々の声と馬の走る音が地鳴りのようにして、空気を揺るがした...

やがて睨み合う両軍________


「リオウさんは、もうそろそろでしょうか...」

「お前...本気で一人で行く気なのか...?」

ビクトールの隣に馬を並べ、ミアはハイランド軍を鋭い眼光にとらえた

「冗談だと思いますか?」

まぁ、見ていて下さい。というようなニンマリとした笑みをビクトールへと向けたと思えば、その表情はキッ_と引き締まり前方のハイランド軍を睨み付けた

引き留める間もなく彼女は馬を走らせて敵軍へとたった一人で進む


ビクトールはそれを止めることもできずに見送り、怒りにも似た感情を堪え、敵を見据えた

こんな中に女を一人飛び込ませるなんて

「いくらなんでも無謀すぎるだろ...」

「おい、ビクトール、ミア様が心配か?」

星辰剣が笑い交じりの声で問いかけてきた、いつもの人を馬鹿にしたような話し方に、ビクトールは、フン_と鼻息を漏らし、敵軍を見る目つきを更に尖らせた

「心配しちゃ悪いかよ...」

「その心配は無用じゃ...あの程度の軍勢など、ミア様にかかればへでもなかろう、貴様は自分の心配でもしていろ」

「チッ...うるせぇ________」

_______________________


血が騒ぐ_


...私はまた_______

「ッ...______」

リオウの率いる軍がハイランドの第1軍、ソロン・ジーの軍の背後に出たのを視界の隅にとらえると同時にミアはクルガン率いる第2軍の前へと出た_

馬は走り疲れたのか数メートル手前で崩れ落ち、ミアは身軽に馬から降りると剣を片手にクルガンに向かって、突っ込んでゆく

「何者ですか、あの女は_」

それはクルガンの目にも映っていて


視線は真っすぐに私を見つめ、襲い掛かる兵士達を剣一本で切り開いてゆく


彼女の通った後はまるでかまいたち≠ノ襲われたかのよう_____
迫りくる敵を前に、僅かに身構えた

次の瞬間、女が飛躍し、振り下ろされた剣を、かろうじて剣で受け止めた

「随分と戦いに慣れてらっしゃいますね」

ミアはクルガンの言葉に表情一つ変えず、無言のまま剣に圧力をかける、クルガンがバランスを崩した

「ッ...;!?」

そのまま落馬したクルガンはすぐに体制を整えようと片膝を付くも、次の攻撃が繰り出される

二人の間に戦いの火花が激しく散る中、クルガンは己の最後を感じ始めた

諦めが闘志にも出たのか、クルガンの剣筋が鈍り、持っていた剣を弾き飛ばされ、それは地面へと鈍い音を立て落ちた


終わりだ...


目の前の女からは殺意や敵意など感じられず、ただ、命じられたままに俺の命を狩ろうとしている

振り下ろされるであろう次の一手に全てを諦め、瞳を閉じようとした

その時

草をする音と共に、目前に見覚えのある剣が地面へ突き刺さった

そして、耳に入る聞きなれた友の声


「あっぶねぇ!クルガン叩き切るところだったぜ」

「・・・;」

楽しそうに笑みを浮かべるシードを唖然と見上げた


シードは女の背後を狙ったが、寸前の処で避けられ
笑みをさらに深く広げ、声を出し笑うがその目は女への殺意に満ちている

「ハハッ_久々に楽しめそうだぜ」

「......」

ミアは一軍のリオウへと視線を向けた

背後をとったリオウは一気にソロン・ジーを攻め、シュウの計画通りに事は運ばれてゆく

足止めもこの辺りでいいだろう...




クルガンは体制を整え、シードの隣へと並んだ

雷の紋章を発動させようとするクルガン、それに剣を構えるシード

ミアは自分の持つ剣を地面へ落とし、静かに二人を見た


「...」


女は絵にかいたような綺麗な笑みを浮かべる

いつもなら、クルガンの雷の紋章で雷を落とし、相手が怯んだところをシードが攻撃するのだが...

いつもの雷の紋章が発動されない

「おい!何してんだ」

「...おそらく彼女の力でしょう、紋章が使えません」

「なにっ!?」

そんなことができるのか?_
 
焦りにも似た表情でシードは、友の身を案じ視界をそちらへ動かした

「では、いずれまたお会いしましょう_」

透き通る声が聞こえ、女のほうへ目を向けたが、彼女は既にその場から背を向け、先ほどまでクルガンが乗っていた馬へ乗り、去ってゆく


「くそっ、逃がすわけねぇだろ」

「深追いは禁物です、それに...」

追いかけようとしたシードを引き留め、クルガンは静かに首を横に振った

「まさか勝利できるはずの戦いで退却だと...?」

「仕方ありません」

ハイランド軍はどの軍も同盟軍に押され、ソロン・ジーの隊は壊滅状態だ

サウスウィンドゥで引き入れたはずの兵士は身を翻し、同盟軍へ吸い取られてゆく

____________


城へ戻る途中、リオウの軍へ加わり退却してゆく王国兵を見送る

城へ戻ると沢山の歓声がリオウの活躍を祝い城内へと導く

その後に城門を潜るミアをフリックやビクトールが出迎えた

「まさかホントに一人でやっちまうとはな」

「ケガはないか?」

驚くビクトールに心配してくれるフリックを交互に見やり、表情を緩めるミア

「はい、なんとか」

ミアはそう言うが、疲れなどはその表情には出ておらず、着ている洋服さえも汚れは見られない

男二人は返り血やら汗でドロドロなのに


そのうちフリードがミア達を呼びに来て、三人は呼ばれるがままに城内の議場へと向かった

勿論、ドロドロの二人は後程合流となるのだが

議場へ行くまでも、ソロン・ジーの背後を突き、追い払ったリオウの話題で城内の人々は盛り上がっている


「リオウさん、大活躍でしたね」

議場にいたリオウにそう声をかけるが、彼は重い表情で首を横に振った

「みんなが助けてくれたから」

「そうですか...」

彼の言葉に聞き覚えがあった_

大昔、ヒクサクも同じことを私に言った

みんなが助けてくれたから_

みんなが私を守って死んでゆく_

時は流れて...昔の彼を知るのは、私だけになった______


「ミアさんこそ、本当に一人でクルガンの隊を足止めしちゃって、すごかったです」

「いいえ、私も...アナタや皆さんが頑張っていたからこそです_」

ミアは笑みを浮かべると、リオウの後ろにいるシュウへと視線を送った

シュウもこの結果には満足している筈なのだが、既に先の事を考えているのだろう、議場を見渡しては顎に手を付き、表情はどこか強張っているように見える

丁度その時ビクトールやフリックも到着し、リオウへと労いの言葉をかける、二人のいつもの調子を見てリオウにも自然と笑みが浮かんだ

そんな中、シュウが顔を上げ、一歩前へ出た、その様子に気が付いたビクトール達は笑みを途絶え、顔を向ける

それは、破門された軍師だと疑っていた彼を、軍師だと信頼し、認めた証でもあった...


「この戦いは勝利を得ることができた。

しかし、ミューズ市長アナベル殿はすでになく、ミューズ市もハイランドの支配下に落ちている。

都市同盟はバラバラになり、このままでは
それぞれ撃破されていくのは目に見えている。

このノースウィンドゥにもいずれは王国軍の本隊、ルカ率いる白狼軍が攻め行ってくるだろう_

そうなれば、今の我々に太刀打ちする術はない。
方法はただ一つ...
この地に力を集める事だ。」

「ここを王国軍に対抗する為の本拠にするってことか?」

ミアはシュウの言葉にフリックが疑問をぶつけるのを見ながら、胸騒ぎのようなモノに襲われ眉をしかめた_


「そうだ、人々を集めるための器は既にある、この城が器になる。
必要なのは人々を結びつける力。
人々を導くリーダーが必要だ。」

シュウの視線はリオウを捉え、真剣な表情のまま目を逸らそうとはしない_

「リオウ...いや、リオウ殿。
あなたが新しい同盟軍のリーダーとなるべきです。
どうか我々に勝利への道を示してください。」

シュウの言葉にリオウは瞳を大きく見開いた

やはり_
思っていた通り、リオウの宿す紋章の呪いは、彼を戦いの渦の中心へと導く

ミアや他のメンバーはリオウの返事に耳をすませたが、ナナミがすかさず間に滑りこんだ

「ちょっ、ちょっと!ちょっと待ってよ!なんで?なんでリオウなの?なんかおかしいよ、どうして?説明してよ!」

「...ゲンカクの名前か」

ビクトールは神妙な面持ちでシュウを見た
シュウもそれに答えるようにして、一度小さく頷くと口を開く

「30年前、都市同盟を終われた英雄ゲンカクの子、
そして、ゲンカクもまた宿していたという輝く盾の紋章≠その右手にたずさえ

今、ソロン・ジーを打ち破ったリオウ殿、
多くの人々があなたの姿に希望を見るでしょう

そして、何よりあなたの中に輝きを見た。
時代の必要としている輝きを。
あなたこそが、この同盟軍を率いるべきです______狂皇子ルカ・ブライトを倒し、地に平和を取り戻すためには、貴方の力が必要です」


多くの人々が彼の姿に希望を、未来を見るだろう_

自分の国の為、友のため、流された血のため...
そして、リオウに多くの人々が集う_

それこそが力\______

「そんな...僕なんかが...」

リオウの口からやっと出た言葉は僅かに震えていて、今にも逃げ出したそうに表情を怯えさせている

「いきなり言われてもすぐには返事なんかできませんよね、リオウさん...」

「っ...」

この少年が、リオウがまさか、あのゲンカクの子供...?
養子を二人引きとった_とは聞いたが、まさかこんな運命的な事が合って良いものなのか...
まるで呪われた運命のよう______

ミアは自身の表情に戸惑いが浮かばないように緩やかに笑みを浮かべ、リオウの肩を叩いた

彼は困り切った表情でそれを見返し、頷く


「リオウ、話したい事があるんだ、アナベルが...お前たち、ゲンカクの子供に伝えようとした話だ...シュウ、ちょっと時間をくれねぇか?」

場を濁さないようにかビクトールが明るい声でそう言って、苦笑いをこちらへ向ける

アナベルが伝えようとしたこと_
とは、きっと自身の父親がゲンカクにした非道_の事だろう...
そしてその償い...


「リオウ殿...ゆっくり考えてもらいたい、そして心が決まったなら、もう一度ここへ来てほしい、わたしは、貴方を信じている_」

シュウの言葉に困り顔のまま頷くリオウ、ナナミも同じように困り顔であったが頷きはしなかった_










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