幻想水滸伝
□Ⅺ
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夢の世界の君は、こんなにも私を求めてくれるのに
現実の君は私に触れてもくれない
拒絶もしない
ただ、存在しているだけ...
ラダトへと戻り、夕方になると宿屋の前でアップル達と合流した
部屋から出てこなかった筈なのに、外から現れたミアを不思議そうに見るアップル
さすが、鋭い観察力だ、内心アップルを褒めながらも、どうかしましたか?_と顔を傾けて見せたが、アップルは、いいえ_と笑みを浮かべ首を振った
見ていない間に外出したのだろう_とでも思ってくれたか...
「さぁ!橋の方へ行こう♪」
ナナミの元気な声に一同は歩みを進めた
夕陽に照らされたデュナン川はキラキラと水面を輝かせている
燃えるような赤、だが風は冷たく、水の流れる音がよけいにその寒さを煽るようだ
ミアはそれを見下ろし、まだかまだかと橋の上を行き来して待つナナミの声を耳に入れながら、隣で空を見上げるアップルに視界を移した
「...まるで遅刻した恋人を待っているような気分ですね」
「そっそんな!恋人だなんて///」
フフッ_と笑みを浮かべ外気に触れ白くなった息を吐くミアに顔を横に振り、真っ赤になるアップル、名前の通り、まるでリンゴのようだ
だが、純情な乙女の顔がサーッと引いて、強張るその視線の先を目で追うと、黒髪を風になびかせ、数人の仕事仲間を連れたシュウが現れた
ナナミの雇った探偵は中々仕事の出来る奴のようだ
シュウは視線を一度はこちらへと向けたが何もないように通り過ぎようとした
「待ってください!」
「話は済んだはずだ...」
引き留めるが、疎ましそうにシュウはアップルを睨みつけた
「私は諦めません!!!」
「...お前の関わろうとしているのは戦争だ、お前の学んだ事、戦いの方法...先の戦い、傭兵のビクトールの砦がお前の失策で落ちた時...何人が死んだ?それがわかっているのか?」
「わかっています...私は...無力でした...だから...だからシュウ兄さんの力が必要なんです」
お願いします!_そう言って下唇を噛みしめ、目に涙をためて頭を下げるアップル、シュウは眉間にしわを寄せたまま、その表情を緩めようとはせず、呆れかえったと言うようなため息を吐いた
「では、もしお前の策が成っていたら、それもまた多くの人の命を奪う、その重さにお前は耐えられるのか?」
「それは...」
勝利してもしなくても、戦争という物は多くの命をムダにする事となる
その重さに耐えられるのか...
ミアはその光景を見ながら口を挟むことができなかった...
その重みに耐えられるような人間はそういないだろう...
言葉を詰まらせたアップルから視線を川へと向け、シュウはポケットから何かを取り出した
ゆっくりと橋の手摺へと向かい、ミアの横へ並んだ
ミアはシュウの横顔を見上げ、次に手元へ視線をやる
ナナミやリオウ、アップルもそれに視線を向けた
「ここに銀貨がある、俺の交易相手、トラン共和国の南の群島諸国で流通しているものだ...」
その銀貨は夕陽に照らされ小さく光った、ファレナ女王国のモノか...
ミアは、だからなんだ?とシュウの顔を見上げようとした、だが
手にあった銀貨を、シュウは川へと投げ捨てた、アップルやナナミが小さく、あ_と声を上げ手摺から身を乗り出しそれを目で追う
「アレをとってこれたら、仲間になってやる」
シュウは一仕事終えたかのようにため息を吐くと、仕事仲間の方へと向かう
「約束ですよ?」
その背中にミアがそう言うと、シュウは初めて笑みを見せた...
それは人を小ばかにするような意地悪な笑み...
「約束は守る_」
「すぐに探しましょう...銀貨が流されてしまいます」
シュウの背中を見送ろうとするアップル達にそう言って、堤防へと向かうミア、リオウとナナミは川の流れを止めてもらえるように橋の袂の猟師の元へ向かった
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川の流れを止めたおかげで、水嵩は随分減った、ミアとアップルは迷うことなく冷たい水へと足を付けた
それに続きナナミやリオウも川へ入り、銀貨を探し始めた
四人は一言も話さずに懸命に銀貨を探すが、小さなコインがそう簡単に見つかるとも思えない
「寒い...」
ナナミの震えた声が耳に入り曲げていた腰を伸ばす
いつの間にか辺りは夜の闇に染まっていて、橋の上の松明がほのかに辺りを照らしている
「ナナミさん、少し休んでもかまいませんよ、風邪を引いては困りますし...」
夜の黒に、白い息がくっきりと浮かび上がる、ナナミは何も言わず首を横に振り、僅かに微笑んだ後、また川へと両手をつけ銀貨を探し始めた
もしも見つからなければ、夢魔の紋章を使うしかないだろう...
出来れば使いたくはないのだが
そう思いミアもまた、寒さで感覚のない両手を水へ沈める
ヒクサクがもし見ていたら、怒っているか、夢魔の紋章を使えと笑っているか...そのどちらかだろう
「もう...いいですよ...きっともう...見つかりません...」
アップルの諦めた声が耳に届き、目をそちらへ向け、また腰を伸ばす...
アップルは両手を拳にし、下唇を噛みしめ悔し気に視線を落としていた
「...アナタが諦めちゃ...ダメですよ...」
久しぶりの感情...虚しさが心に広がり、呆れたような口調でアップルにそう言った時だった
リオウが、ぁ_と小さく声を出し、何かを川からすくい上げた
「リオウ!それ!」
ナナミがバシャバシャと水しぶきを軽く上げリオウへ駆け寄った
「ありました!ありましたよ!」
リオウの手には月明かりに光る銀貨が確かに握られていて、それをアップルに見えるように掲げた
「これで...シュウ兄さんが仲間に...」
アップルは堪えていた涙を流し、リオウから銀貨を受け取ると大事そうに胸の前に重ね、安堵を含んだ声を出した
ミアもまた、ホッと胸を撫で下ろし、川から出ようと堤防の方へと顔を向けると、シュウがこちらを見下ろしていた
時刻は深夜を回っていて、まだ銀貨を探している事に呆れ顔を浮かべている様子だったが、ナナミ達の喜びの声に、まさか...と眉間にくっきりとしわを寄せた
ミアは人の悪い笑みを浮かべてみせ、歩を進める、シュウも堤防を降りてきて、丁度中間あたりですれ違いざまに声をかける
「約束は、守ってくれるんですよね?シュウさん」
「...あぁ、勿論だ」