短編小説
□センセイション。
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「おい、聞いてんのかクソ野郎」
とある昼下がり、とある高校の屋上で、とある生徒と教師が火花を散らしていた。
「おやおや、わざわざ人を呼び出した上にクソ野郎と罵るなんて、随分な仕打ちではないですか?牧野虎雄くん。」
「うるせぇ!テメェが紗那に手ェ出したのは知ってんだよ!!」
「紗那?一体何のことでしょう?」
「とぼけんじゃねえぞ、この間テメェと紗那がラブホに入ってくとこを見たってヤツがいんだよ!人の女に手ェ出しやがってクソが!!」
「あぁ、藍原紗那のことですか?なるほど、あなたと交際していたのですね。それは失礼しました。」
「テメェ…」
「ですが、関係を求めてきたのはあなたの彼女さんの方ですよ?甘ったるい声で擦り寄ってきましてねぇ……いやはや、積極的な彼女さんをお持ちのようで」
「ッ、このっ!!!!」
挑発的な態度の教師、三島裕也(みしまひろや)に、牧野虎雄(まきのこうが)は思わず胸ぐらに掴みかかった。
三島は28歳の独身で、そのルックスの良さと柔らかい物腰が女子に受け、校内で一番の人気を得ている。
しかし一方で、女癖が悪く、女子生徒や女教師にも手を出しているという噂もあった。
「紗那がそんな真似する訳ねぇだろ、人を馬鹿にすんのも大概にしろよ…!!」
「本当ですよ?なんなら、証拠見せましょうか?」
そう言って、携帯を取り出す三島。
「ハメ撮り…というんでしょうか?彼女がしたいと言ってきましてね。私の携帯を使って、自分で撮影してましたよ」
そう言って、一本の動画を虎雄に見せる。
『はーい、紗那と先生は、今エッチをしてまーす♡見てください、紗那のナカに先生のおっきいの入ってますよー♡』
「ッ、さ、な…っ?」
こちらに向かって笑顔で話しかけてくるのは、紛れもなく自分を愛してくれていたはずの女性だった。
『あンッ、は、あぁ!っ、いっ、いいっ♡せんせぇのゴリゴリって、紗那のナカ擦ってるぅ…ッ♡』
自ら三島の上に跨り、喜声をあげて腰を振る彼女。
虎雄は頭の中が真っ白になり、ただ映像を見ていることしかできなかった。
そして動画が終わる寸前、達した余韻に浸る彼女が、恍惚の表情を浮かべこう言った。
『紗那、もう先生じゃなきゃ満足できない…っ♡先生、だぁーいすき♡』
動画が途切れ、三島が胸ポケットに携帯を戻しても、虎雄はまだ先程まで画面があった一点を呆然と見つめていた。
「どうかな?これで、向こうが乗ってきたって分かってくれた?」
「ッ、ふざけんな!!こんな、っ、この……ッ!!」
再び三島の胸ぐらを掴む。が、すぐにその力は緩んだ。
「な、んで…っ、俺のこと、飽きたのか…?紗那……ッ!」
俯き、か細い声で独りごちる虎雄。地面に、ポツ、ポツとシミができる。
「紗那…っ、なんでだよ、紗那ぁ…ッ!!」
ボロボロと泣きじゃくる虎雄。それを見た三島が、ニヤリと口角をあげた。
「なあ、牧野くん……」
虎雄の耳元に口を近づけ、甘く囁く。
「そんなアバズレなんてもういいじゃないか……僕は君を絶対に傷付けない自信がある。ホラ、こうされると安心しないかい?」
三島の長い腕が降ってきて、ギュッと抱きしめられる。
彼女を寝取られた男だというのに、絶対に許せない相手なのに、暖かい腕の中が嫌に心地よかった。
「君は守るより守られる方が向いているんだよ。安心して?僕といれば、君はもう涙を流さずに済む。幸福感に包まれ、ずっと笑顔でいられるんだ。だからね、牧野くん。君はもう、何も心配しなくていいんだよ……?」