短編小説

□僕だけを愛して。
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ガチャッ。


「ただいまー」

「あっ、おかえりーっ!」


玄関のドアを開けると、声と共に足音が近付いてきて、部屋から大地が顔を出す。


「孝輔、今日は帰り早かったんだね!」

「あぁ、大地に早く会いたくてな」

「ふふっ、嬉しい」


ぎゅう、と俺に抱きついてくる大地。

俺と大地は恋人で、アパートで2人一緒に暮らしている。

俺は中小企業に勤める23歳で、大地は現在19歳、所謂引きニートというやつだ。


「……孝輔、香水の臭いがする」


俺の胸に顔を埋めたまま、大地が小さな声で呟く。


「え?」

「……浮気?孝輔、女と浮気してるの?」


顔を上げて俺を見つめる大地の目からは、先ほどまでのキラキラとした生気が消えていた。


「ねぇ、浮気なの?女と遊んでるの?ねぇ!」

「ちげえよ、んなことしてねぇ!女性職員か誰かの香水の臭いが移っちまったんだよきっと!」

「嘘だ!!僕のこと飽きたんでしょ!?女の方がいいんでしょ!?女の身体の方が!!」

「落ち着け、ホントに浮気なんかしてねぇよ!俺が好きなのはお前だ大地!」

「……本当?本当に僕のこと好き?」

「ああ、当たり前だろ!」

「……じゃあ、キスして?」


俺の首に腕を巻き付け、じっと俺を見つめる。

言われるがまま、大地の柔らかい唇に、ちゅっと口付けた。

すると、すぐに大地から舌を絡めてきた。


「ン、ふ……っ、ちゅ…っ」

「っは、む……ン」


甘い吐息を漏らしながら、ぴちゃぴちゃと音を立てて俺の咥内を貪る。


「っ、ぷは……っ」


大地がゆっくり唇を離すと、透明な糸が2人の唇を繋いだ。


「ねぇ孝輔、もし、僕以外の誰かとキスしたら………」


俺の耳元に顔を近づける。


「殺す」


小さくそう囁くと、ニコっと笑って目にいつもの輝きを取り戻す。


「さ、ご飯にしよっ?僕お腹空いちゃった!」


俺の腕を引っ張り、部屋へと連れていく。


−−−『殺す』。


大地は何も、冗談で言っているのではない。

嫉妬深い性格の大地は、少しでも怪しいことがあると、すぐに機嫌を損ねてしまう。

そうなると厄介で、ナイフやバットを手に取り俺目掛けて降り下ろしてくるのだ。


「今日の飯も美味いなぁ。本当に大地は料理が上手だな」

「ふふっ。まだまだあるから、たくさんおかわりしてね!」

「あぁ」


それでも、俺は大地を愛している。別れようなんて思ったことは一度もない。

俺がいることで、大地の心を満たすことができるのなら、それでいいのだ。
























――30分後


夕飯を食べ終えた俺たちは、ソファーに座りテレビを鑑賞していた。


「じゃあ、俺シャワー浴びてくるな」

「うん!いってらっしゃい!」


大地にそう告げ、俺は風呂場へと向かった。


「ふぅ…極楽だ……」


風呂は神の与えた万物だ、と思った。

ひと度お湯に浸かれば、1日の疲れや嫌なことなんかが全部どっかに消えてしまう。


「今日も1日頑張った。お疲れ、俺」


どっかりと浴槽に腰を下ろし、1日社畜のように働いた自分を労った。
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