短編小説
□君の唄。
1ページ/4ページ
「それではもうすぐ時間ですので始めましょうか」
「分かりました」
「えー、では皆さん大変お待たせしました!只今よりkaito.握手会を始めます!」
『キャァァァァァア!!!』
スタッフの言葉を合図に、ファンの女の子達が一斉に黄色いをあげた。
俺は『kaito.』という名前で歌い手をやっている。
本名は氏神戒斗(うじがみ かいと)。
そこから、『kaito.』。
元々歌うのが好きで、趣味程度に始めた歌い手だが、思った以上に動画が伸び、ライブに呼ばれる回数も増え、雑誌掲載を飾り、遂にはソロCDまで出してしまった。
そしてこの握手会は、その発売記念という訳だ。
「ずっと好きだったんです!これからも応援させて下さい!」
「ありがとう、嬉しいよ」
「あぁぁ生で見るとヤバイ、マジでカッコイイ!頑張って下さい!」
「そんなこと無いよ、ありがとう」
1人1人からかけられる言葉にきちんと返して、握手をする。
泣き出す子や、握手後に「一生手洗わない!」と興奮する子など様々なリアクション。
「ぼ、僕、kaito.さんのこと大好きです!頑張って下さい……っ!」
周りのファンより身長が低く幼い顔、中学生くらいだろうか、男の子が遠慮がちに手を伸ばしてきた。
正直俺はあまり男ウケ良くないからこういうのは嬉しい。
「そう言って貰えて嬉しいな、ありがとう」
ニコッと笑って手を握ると、彼の顔が真っ赤に染まる。
「あ、あああありがとうございますっ!」
早口でそう言って、去って行った。
そんなこんなで握手会が終わったのは1時間半後。
電話がかかって来て、俺は夜に歌い手仲間と飲みに行く約束をした。