本箱
□ささやかな秘密
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そもそもの発端は、アフロディーテが酷い風邪をひいたことだった。まだ俺達が小さい時だ。
アフロディーテは熱がなかなか下がらず、食欲がどんどん落ちていった。大人達は少しでも栄養のある物を食べさせようとしたが、アフロディーテは頑として口を開かなかった。
しまいにはサガまで説得に引っ張り出された。黄金聖闘士の先輩であり、優しく思いやりのあるサガの言うことなら、アフロディーテも聞くだろうと思われたからだ。俺とデスマスクもサガにくっついて見舞いに行った。
ベッドに横たわったアフロディーテは、見るからに具合が悪そうだった。顔は赤いし、目は潤んでいた。髪もボサボサ。
「アフロディーテ、具合が悪いのは分かるが、少しは食べなさい。皆が心配しているぞ。」
サガの声も心配そうだった。
「食べたくないんです……。」
小さな掠れた声でアフロディーテはサガに答えた。
「何か食べられそうな物は?」
サガの問いにアフロディーテは首を横に振った。
アフロディーテの様子があんまり痛々しかったので、俺はつい横から口を出した。
「なぁ、お前、何か食べたいものは無いのか?」
「……特に無いよ。」
「あ、嘘つけ!お前何か食べたい物あるだろ?!隠したってムダだぞ」
デスマスクがアフロディーテに詰め寄った。アフロディーテは、バツの悪そうな顔で俺達を見返した。
「言っても笑わないか?」
「とにかく言ってみろよ。言わなきゃ分かんねーよ。」
デスマスクは答えを促した。
「その…桃のゼリーが食べたいんだけど…」
「「桃のゼリー?」」
俺とデスマスクは異口同音に聞き返した。
「うん…それなら食べられると思う。というか、食べたい。」
「じゃあ、なんでもっと早く言わなかったんだよ?」
デスマスクが呆れたような口調で言った。
「だって…そんなの、ただの我が儘だし、桃のゼリーが食べたいなんて、女の子みたいだと思われたくなかったから…」
アフロディーテは熱で赤い顔を、更に真っ赤にして言った。