ヘウン


□残像 8
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病室に入ってきてから下を向きっぱなしで、
全く目を合わせてくれなかった、俺の大切な人。



そんなドンへの肩が、大袈裟に震えた。





また病室内が静まり返る。


ドンへは返事をしてくれない。

俺の方を向いてもくれない。


まるで今ここでベッドの上に横たわる俺なんか、存在しないものとしてるみたいに。





『...ドンへ。』

「......。」




また、ドンへの肩が揺れる。

そんなにしなくても、俺、怒ってるわけじゃないんだけどな。





「...ドンへ、返事。」

「.....。」

「話とけよ、いつ何があるかわからないだろ。」

「.....。」

「後悔、してもいいんですか?」

「.....。」

「..........ドンへ、いい加減に...!」




ハンギョニヒョンが、
ヒチョルヒョンが、
リョウクが、


ゆっくりと、ドンへを諭すように話しかける。



最後のソンミニヒョンは、少しだけ声に怒りが滲んでいたけど。




それでもドンへは、俺の方を向いてはくれようとしなかった。




(ダメか、そりゃ怒ってるよな。)




ここのメンバーは周りに気を使う。


そりゃ、これだけの病気だ。

いくら空気感染しないからって、
流石に何も言わずに何ヶ月も
こんな病気の体で皆の側に居たんだ。

俺に対する怒りはあることだろう。


それなのに皆、俺に気を使って何も言わない。


ドンへが思ったことをすぐ表情や行動に出してしまうのは、
ドンへが無垢だから。




そう考えながら自嘲気味に小さく笑った。


そりゃあ俺はドンへが好きだし、
傷付くか傷付かないかと言われると、
後者を答えると思う。


ドンへの困った顔を見てると、不安にも思う。


ドンへの眩しいくらいの笑顔が、
優しい声が、
底抜けた優しさが、
キラキラしている目が。



すべてが大好きだから。






ねえドンへ、笑ってよ。


君にはそんな顔、似合わないよ。



俺のこと怒ってもいいから。
罵っていいから。
嫌いになっても、いいから。



だから、笑って?









好きだよ、ドンへ。





その気持ちは、今でも決して変わらない。







































昔から、ドンへはそういう奴だった。



俺はデビューまで想像を絶するくらいの時間があったから、
デビューできるのかどうか不安になって涙で枕を濡らす事は一度や二度じゃなかった。

デビューできるって分かった時も、
逆に長すぎた練習生期間が俺の後ろ髪を引っ張って、
最初の時はどうも練習に身が入らなかった。


でも、ドンへと出逢って、
それが全部吹っ飛んだんだ。




俺、イ・ドンへ。
全世界の女性の彼氏になる男だから!
君も、俺の虜にさせてあげるよ!





いくら若いとはいえ、
葉の浮くようなクサいセリフ。


その時は、
ソンミニヒョンと顔を見合わせて苦笑いするしかなかった。


言ってることチャラいし、
これは本気で言ってるのかふざけていってるのかすらよく分からなかった。



世界中の女性の彼氏、て、僕達は男なんだけど...。



困ったようにソンミニヒョンがドンへに言う。

するとドンへは目を丸くして、隣にいたトゥギヒョンの方を向いて言った。



ヒョン!どうしよう!
確かにこのキャッチフレーズ、
女性対象でしかないから男には使えない!
うう、困った、気付かなかった!
分かった!「全人類の恋人になる」で良いんじゃないの!?





気にするとこそこかよ。


ドンへの隣で苦笑いしているトゥギヒョンが変な汗をかいてることは、
見てる俺からも分かるくらいだった。


てか、男相手にもその気なのかな?


無鉄砲で、一生懸命なのがすごく伝わってきて、
スターになる奴ってこんな奴なんだろうな。て思った。






なんか、変な人と同じグループになっちゃったね。

うん、でもまあ楽しそうじゃない?





















俺はあの瞬間には、

もう既にドンへに恋に落ちていたのかもしれない。


ドンへには本当に感謝してもしきれない。












「....っ、ひょく、ちぇ...、」




走馬灯のようにかけ巡った思い出に、自分の最後が近いことを伝えられているような気がして。


俺と一番離れていた場所にいたドンへが泣いていることに、俺は気がつかなかった。





「...っく、ひょく、ちぇ、え...。」








俺の大好きな、ドンへの笑顔はそこにはもうなかった。



ただ、出逢ったときのような

純粋で、まっしろで、透明な、





そんな昔のドンへを彷彿とさせる、



綺麗な綺麗な涙だった。


















「....ひょくちぇ、
....どこにも、いかないでよ....。」

























その舌っ足らずな声に、




俺は喉のあたりまで
何かが込み上げてきたのを




感じずにはいられなかった。







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