ヘウン
□残像 2
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「それでね、ユノのやつおかしいんだよ!」
「おかしいのかそれが?」
「あはは!だっていきなり叫び出したんだよ!?”精神統一だ!”とか言って!
あれには流石のチャンミナも呆れてたね!」
「ユノは真面目だからな」
「真面目っていうか、古いっていうか、本当に見てて飽きないよな〜」
「そうだな。俺たちも見習わないとな。」
「...。...ヒョクも相当まじめだよね。」
夜。
俺はドンへの部屋にいた。
ドンへとするたわいもない会話も、俺にとっては愛おしくて大切な時間だ。
きっとドンへはそんなこと、欠片も思ってないんだろうけど。
「...お前とユノは本当に仲良しだな」
「まー地元近いからねー。
でもヒョクの方が仲良しだもん。
ユノに最近よく言われるんだよ、ウニョクと仲が良すぎるー!ってさ!」
「......。」
ドンへは、なんでこんなに無邪気なんだろう。
純粋で、混じり気が無くて、透き通ってて、
顔も良くて、人懐っこくて、愛に溢れてる。
でも今日、伝えるって決めたから。
「...なあドンへ、俺さ、お前のこと好きだよ。」
「えっヒョク、俺も!ヒョク大好き!」
「...きっとお前がいう好きと俺が言う好きは別物だよ。」
「なんでなんでぇ!?
俺、ヒョクのこと本当に好きなの!
世界で一番好きなの!結婚しようヒョク!」
「...おまえ、ソヨンちゃんがいるだろ?
俺なんかにそんなこと言ってると俺が嫉妬されるんだぞ」
「...ソヨン?...え、誰?」
「え?付き合ってたよな、...ほら、線の細い黒髪の...、すらっとした美人の子」
「う〜ん、う”〜...、...あ!分かった!思い出した!
その子なら一週間前に別れたよ〜」
「...。付き合い始めたのは何週間前だ?」
「...一ヶ月前?」
「短すぎるだろ!」
「ち、違うんだよヒョク!
俺は振られたんだよ、あの...、なんてった?ハナちゃんに!」
「...ソヨンちゃんな。名前くらい覚えといてやれよ、付き合ってたんだからさ。
で、なんで振られたんだ?」
「俺がかまってくれなかったからだって。
女って面倒だよね、友達と遊んでるだけで嫉妬だなんて。」
「...告白したのは、どっち?」
「え?...ああ、ヨナンちゃんのこと?
向こうから告白してきたよ〜。
会いたい会いたいって連絡も、ぜーんぶ向こうから。」
「だからソヨンちゃんな。
...なんで会ってやんなかったんだよ。
あの子いい子だったじゃん。」
「だって〜、ヒョクと話してる方が楽しいんだもん!」
「...ちゃんと好きだったか?ソヨンちゃんのこと。」
「んー?いや好きだったよ?
いい子だったと思うしさ、つくしてくれた!
...でもさー、俺尽くして欲しくなんてなかったんだよね。」
「なんで?彼女だったんでしょ?」
「俺からしてみればさ、彼女って肩書きで出しゃばって欲しくないんだよねー。
俺の私生活だよ?
いきなり来てさ、まだ寝てたいのにたたき起こされてさ、当たり前みたいに朝飯作ってさ、洗濯とかも全部しちゃってさー!
うっとおしかったんだよね!」
「...。」
「彼女だからさ、何?
俺のプライベートをなんであんな子のために使わなきゃいけないわけ?
...母親でもないのに、図々しい。」
「...なあ、ドンへ」
「ん?」
「お前にとって、彼女ってなに?
そんな言い方したら可哀想だろ。
お前は、彼女と友達の境目が無さすぎるだろ。」
「...だって俺にとって彼女も友達も同じだもん。」
「...は?」
「...あ、ヒョクは特別だよー?
なんかさ、俺とヒョクが恋人になる可能性なんてほぼ皆無じゃん?
ヒョクも考えてみてよ!
”彼女”って肩書き持っただけの友達に束縛されてさ、私生活滅茶苦茶にされて...、イラつかない!?」
「お前...、何言ってんだよ...、
それなら彼女なんて作らなきゃいいじゃないかよ...」
「俺は言ったんだよ?
付き合っても構ってあげられないし、君のことを特別扱いも出来ないと思うから付き合えないって。
でもそれでもいいから付き合ってくれ、って言ってきたのはギョンジェちゃんの方だよ。」
「......。」
ギョンジェちゃんじゃないよ、ソヨンちゃんだよ。
そう訂正する気力すら、俺には残っていなかった。
告白するつもりでいた。
いや、もう既に好きという気持ちは伝えた。
ちゃんと伝わったかどうかは知らないけど。
でも、これ以上ドンへに気持ちを伝えるのが怖くなった。
彼女に嫉妬されて迷惑?
私生活に足を踏み入れられて不愉快?
付き合うときに構ってやれないって断りを入れた?
そんなこと、知ったことじゃない。
それでも愛してやるのが、恋人じゃないのか?
ドンへは綺麗だ。
純粋で、混じり気がなくて、透き通ってて、
それでいて時に目眩がするほど残酷なのだ。
子供なんかが持ってる、特有の残酷さ。
ほら、小さな子供って、悪気なく、遊びのつもりで、虫を握りつぶりたりするだろ?
それと同じ。
ぐちゃり、そんな感じのエグい音がした。
俺の心が、ドンへによって潰された音だった。
『あんたが好きになる人って、いっつもなんかワルい人よね。』
姉さんの言葉が頭の中を駆け回る。
気付いたらベッドの上で、ドンへに抱き枕代わりにされて眠っていた。
ドンへは掛け布団すら要らないのではないかというくらい、俺に抱きついていて、なんとか左腕だけ自由に動かすのがやっとなくらいだった。
その自由な左腕で、ドンへの頭をくしゃくしゃ、と撫でた。
ドンへの髪は柔らかくて、撫でるたびに愛しさが込み上げてくる。
既に規則的な寝息をたてているドンへのこめかみにキスを落とす。
どうして好きになってしまったんだろう。
こんな愛さえ知らなければ、もう少し楽に逝けたのかもしれない。
ドンへを見るのが、嬉しくて、愛しくて、悲しくて、苦しくて、怖かった。
涙すら、出なかった。
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