ヘウン


□残像 2
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*****



「それでね、ユノのやつおかしいんだよ!」

「おかしいのかそれが?」

「あはは!だっていきなり叫び出したんだよ!?”精神統一だ!”とか言って!
あれには流石のチャンミナも呆れてたね!」

「ユノは真面目だからな」

「真面目っていうか、古いっていうか、本当に見てて飽きないよな〜」

「そうだな。俺たちも見習わないとな。」

「...。...ヒョクも相当まじめだよね。」



夜。
俺はドンへの部屋にいた。

ドンへとするたわいもない会話も、俺にとっては愛おしくて大切な時間だ。

きっとドンへはそんなこと、欠片も思ってないんだろうけど。


「...お前とユノは本当に仲良しだな」

「まー地元近いからねー。
でもヒョクの方が仲良しだもん。
ユノに最近よく言われるんだよ、ウニョクと仲が良すぎるー!ってさ!」

「......。」


ドンへは、なんでこんなに無邪気なんだろう。

純粋で、混じり気が無くて、透き通ってて、
顔も良くて、人懐っこくて、愛に溢れてる。


でも今日、伝えるって決めたから。





「...なあドンへ、俺さ、お前のこと好きだよ。」

「えっヒョク、俺も!ヒョク大好き!」

「...きっとお前がいう好きと俺が言う好きは別物だよ。」

「なんでなんでぇ!?
俺、ヒョクのこと本当に好きなの!
世界で一番好きなの!結婚しようヒョク!」

「...おまえ、ソヨンちゃんがいるだろ?
俺なんかにそんなこと言ってると俺が嫉妬されるんだぞ」

「...ソヨン?...え、誰?」

「え?付き合ってたよな、...ほら、線の細い黒髪の...、すらっとした美人の子」

「う〜ん、う”〜...、...あ!分かった!思い出した!
その子なら一週間前に別れたよ〜」

「...。付き合い始めたのは何週間前だ?」

「...一ヶ月前?」

「短すぎるだろ!」

「ち、違うんだよヒョク!
俺は振られたんだよ、あの...、なんてった?ハナちゃんに!」

「...ソヨンちゃんな。名前くらい覚えといてやれよ、付き合ってたんだからさ。
で、なんで振られたんだ?」

「俺がかまってくれなかったからだって。
女って面倒だよね、友達と遊んでるだけで嫉妬だなんて。」

「...告白したのは、どっち?」

「え?...ああ、ヨナンちゃんのこと?
向こうから告白してきたよ〜。
会いたい会いたいって連絡も、ぜーんぶ向こうから。」

「だからソヨンちゃんな。
...なんで会ってやんなかったんだよ。
あの子いい子だったじゃん。」

「だって〜、ヒョクと話してる方が楽しいんだもん!」

「...ちゃんと好きだったか?ソヨンちゃんのこと。」

「んー?いや好きだったよ?
いい子だったと思うしさ、つくしてくれた!
...でもさー、俺尽くして欲しくなんてなかったんだよね。」

「なんで?彼女だったんでしょ?」

「俺からしてみればさ、彼女って肩書きで出しゃばって欲しくないんだよねー。
俺の私生活だよ?
いきなり来てさ、まだ寝てたいのにたたき起こされてさ、当たり前みたいに朝飯作ってさ、洗濯とかも全部しちゃってさー!
うっとおしかったんだよね!」

「...。」

「彼女だからさ、何?
俺のプライベートをなんであんな子のために使わなきゃいけないわけ?
...母親でもないのに、図々しい。」

「...なあ、ドンへ」

「ん?」

「お前にとって、彼女ってなに?
そんな言い方したら可哀想だろ。
お前は、彼女と友達の境目が無さすぎるだろ。」

「...だって俺にとって彼女も友達も同じだもん。」

「...は?」

「...あ、ヒョクは特別だよー?
なんかさ、俺とヒョクが恋人になる可能性なんてほぼ皆無じゃん?
ヒョクも考えてみてよ!
”彼女”って肩書き持っただけの友達に束縛されてさ、私生活滅茶苦茶にされて...、イラつかない!?」

「お前...、何言ってんだよ...、
それなら彼女なんて作らなきゃいいじゃないかよ...」

「俺は言ったんだよ?
付き合っても構ってあげられないし、君のことを特別扱いも出来ないと思うから付き合えないって。
でもそれでもいいから付き合ってくれ、って言ってきたのはギョンジェちゃんの方だよ。」

「......。」







ギョンジェちゃんじゃないよ、ソヨンちゃんだよ。

そう訂正する気力すら、俺には残っていなかった。


告白するつもりでいた。
いや、もう既に好きという気持ちは伝えた。

ちゃんと伝わったかどうかは知らないけど。


でも、これ以上ドンへに気持ちを伝えるのが怖くなった。



彼女に嫉妬されて迷惑?
私生活に足を踏み入れられて不愉快?
付き合うときに構ってやれないって断りを入れた?


そんなこと、知ったことじゃない。


それでも愛してやるのが、恋人じゃないのか?




ドンへは綺麗だ。

純粋で、混じり気がなくて、透き通ってて、



それでいて時に目眩がするほど残酷なのだ。




子供なんかが持ってる、特有の残酷さ。

ほら、小さな子供って、悪気なく、遊びのつもりで、虫を握りつぶりたりするだろ?


それと同じ。



ぐちゃり、そんな感じのエグい音がした。




俺の心が、ドンへによって潰された音だった。
















『あんたが好きになる人って、いっつもなんかワルい人よね。』






姉さんの言葉が頭の中を駆け回る。





































気付いたらベッドの上で、ドンへに抱き枕代わりにされて眠っていた。


ドンへは掛け布団すら要らないのではないかというくらい、俺に抱きついていて、なんとか左腕だけ自由に動かすのがやっとなくらいだった。



その自由な左腕で、ドンへの頭をくしゃくしゃ、と撫でた。




ドンへの髪は柔らかくて、撫でるたびに愛しさが込み上げてくる。






既に規則的な寝息をたてているドンへのこめかみにキスを落とす。




どうして好きになってしまったんだろう。

こんな愛さえ知らなければ、もう少し楽に逝けたのかもしれない。


ドンへを見るのが、嬉しくて、愛しくて、悲しくて、苦しくて、怖かった。















涙すら、出なかった。







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